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松栄はあっさり引き下がる。その辺は茶屋の女だ。栄助の心の内を読み取ってうまく割りきってくれる。
栄助についている客の女もこれくらい見事に割りきってくれれば。
心の中でしゃべったつもりだが、声に出ていたようだ。
「素人の女には無理よ。特に栄さんについているお客さんには」
役者さんと同じよ、と松栄は栄助にとって嬉しくない言葉を告げた。
「市川団十郎と一緒。あの娘たちはあなたに本気で恋をしているの。お嫁に行くまでのつかの間の恋」
「なんとまぁ、……迷惑な」
「そりゃあ、栄さんが悪いわ」
不快そうに眉を寄せる栄助に松栄は楽しそうに笑う。
「あの頃の女はね、目が合っただけで自分に気があると思うものよ。それなのに栄さんったら。高座の度にわざわざ彼女たちの方を見るから」
「客を見やるのは当たり前だろってんだ」
「だから栄さんって駄目なのよ」
女将が松栄を呼ぶ声が聞こえる。
ふふふ、と笑って松栄は栄助の元を離れた。
「栄さんも好きな人ができたらわかるわ。大事な娘ができたら」
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