エピローグ

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エピローグ

日付が変わる直前。 誰もいない道を足早に歩く人影。 下町のある家の前に着くと、小さく扉を叩いた。 待っていたのだろう、家人がそっと開いた扉に身を押し込める。 「夕飯食べましたか?」 いつもと変わらぬ口調でタエ子が尋ねた。栄助はあぁともいい、とも聞こえるような曖昧な声で返事をする。 いつものちゃぶ台の前に座ると、握り飯が乗った皿が蚊よけの下に置いてあった。 茶を入れにいっているタエ子に確認するまでもない。栄助はそれを頬張った。 ※ 「ワシを越えようなんざ100年早いわ」 師匠はカラカラと笑った。兄弟子のお叱りと師匠の圧倒的な存在感。 栄助はただ、頭を下げる。 「ま、栄助らしくていいんじゃねぇか。元気で跳ねっ返りで何より。 ワシの目の黒い内は思う存分しごけるってわけだ」 覚悟しておけよ、と言う師匠の声は優しく栄助の胸に落ちる。 「これからも勉強させていただきます。師匠、兄さん」 「任せときぃ!」 菊助がドンと胸を叩く。 「しかしよう、その面、なんとかならんかったのかい? 頬がコケて目だけランランと輝いて。 一応男前ということで客を引っ張ってるんだからよう、それなりの身なりをしてもらわにゃ、おまんまの食い上げちまう」 師匠のおちゃらけで場が和む。栄助はやっと顔をあげることができた。
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