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「レイダ、この蝶はなんていうの」
今日も麗らかな姫の小さな花園に、マリー姫の美しい声がひびきます。
「モルフォ蝶です」
レイダは答えます。
求婚者でごった返す広場の喧騒が嘘のように、ここはいつも穏やかです。
姫の所望するものは、ルリオオスバメからイナヅマクサウサギを経て、今はクロノシンジュモドキに変わっていますが、いずれにしろ誰も用意できた者はいません。
「じゃあこれは?」
「アマガエルです」
「こっちは?」
「オタマジャクシです。先ほどのアマガエルの子供かと思われます」
答え終わるとレイダは慎み深く口をつぐみました。花園に設えられたささやかな東屋の中、小さなソファの上で姫は頰杖をつきます。
「ねえ、レイダ。あなたっていつからそんな風になっちゃったの?」
「申し訳ありません」
「何に謝っているの?」
「ご質問の意味を図りかねます。そんな風、とは何だろうかと」
「そんな風はそんな風よ。私と話すのを憚っているでしょう。どうして?私たち小さい頃はとても仲良しだったのに。なぜ私を遠ざけるの?」
「幼さゆえの誤ちでした。身分をわきまえなかった私をご容赦ください」
「そうじゃないのよ」
マリー姫がため息をつきました。
つと立ち上がった姫は花壇の一画にひっそりと置かれた鉢植えのバラに触れます。
白い花弁にオーロラのように七色の紗がにじんだそのバラは、庭園中に咲き誇る可憐な花々の中でも特別に美しいものでした。
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