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「これは何?とてもきれいね」
「新種のバラです」
「あなたが作ったんでしょう?名前は?」
「まだ改良が終わったばかりで品種名はありません」
「だからこの鉢にしか咲いていないのね」
「交配が安定せず量産は難しいかもしれません」
「なるほどね。名前はあるわ、これはラブリーマリーよ」
姫がはっきりと言いました。
姫の気持ちに共鳴するように花園がかすかに震えます。
「このバラはラブリーマリー。小さい頃、二人で考えたでしょう?」
のどかな空に遊ぶ青い蝶を姫は指差します。
「あれはモルフォ蝶じゃなくルリオオスバメ。アマガエルはイナヅマクサウサギ。その子供はクロノシンジュモドキ。みんな私とあなただけが知る秘密の名前がある」
「申し訳ありません。子供の戯言をお忘れください」
「いいえ、忘れないわ。私の大切な思い出だもの」
苦しげに俯いたレイダに姫は駆け寄ります。
「わかっているつもりよ。あなたのお父様は後継ぎのあなたを一生懸命育てていた。お父様はあなたの為に主従の線引きをきちんとすべきと思ったのね。でも私はそれが悲しかった。だって私たち、本当に仲良しだったでしょう?」
姫がレイダの瞳を背伸びで覗きこみました。
レイダに想いを届けたくて、姫は一生懸命です。
同じ年の同じ日に生まれた二人。同じ背丈の同じ目線で過ごしたかつての日々。
姫の小さな花園で泥んこになって遊び、草むらの生き物たちに秘密の呼び名をつけ、無限の空想を語り合う、小さなマリー姫とレイダの宝物の日々。
ルリオオスズメに導かれて冒険に旅立ち、イナヅマクサウサギに頼まれてクロノシンジュモドキを悪者から守る。旅の果てに見つけた七色に輝く伝説のラブリーマリーの花は勇者レイダから姫への贈り物。
二人で紡いだ無邪気な物語の続きを姫は求めておりました。
「どうかご容赦を。私は何もわかっていなかったのです」
「勘弁してほしいのはこっちだわ。あんな御布令まで出したのに、いったいどれだけ私に追いかけさせれば気が済むの?」
「滅相もございません」
「だからそうじゃないんだってば」
「私ごときがあなた様に懸想するなど」
「してよ」
「しかし」
「私のこと嫌い?」
「まさか」
「お願い、レイダ。私を愛しているなら何も怖がらないで。私は私の愛に誰にも文句は言わせない。その為にずっと努力しているのよ。私が君主として本物であれば、夫が誰かなんて何も関係ないはずだもの」
「姫……」
「戻ってきて、レイダ。私の小さな勇者」
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