爽やかの確立

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「…………あの、」 「え?」 何秒経っていたんだろうか。隣のかわいい子──言わずもがな彼もれっきとした男子高校生なのだが──から困惑の声がかけられるまで、俺は完全に固まっていた。 「…あ、ごめんごめん。まさかこっち向いてるなんて思わなくてさ。目が合ってびっくりしちゃったよ」 「……」 「あ、ははー…せっかく隣になったんだし仲良くしてよ。俺は水瀬伊織、よろしく」 「…白峰想良、です」 「うん、白峰ね」 「あ、あの。水瀬くんはもしかして、外部編入生?」 「そうだよ。…やっぱり坊っちゃんだらけの此処じゃ、庶民感出ちゃってるかなぁ」 「あっ、いやっ、そうじゃなくて!も、もう既に噂になってるから……君」 「え?」 「っなんでもない!!よろしくね、水瀬くん」 若干引っかかる言葉があったような気がするが、本人が言いたがらないのならむやみに掘り返さないのが爽やかクンだ。 隣の席の白峰は、少しくるんとした癖毛が特徴的な中性的な顔立ちをしたこれまた男ウケしそうな"男子高校生"だった。身長は平均くらいで筋肉もそれなりについてはいそうだったが、顔立ちのせいで本来よりも華奢に見える。それこそチワワ軍団に加わっていてもなんら違和感のない感じだ。 最初はかなりの無愛想さに戸惑ったものの、恐らく緊張していただけなのだろう、だんだん解けていく表情がかわいらしい。…おっと、俺もいつか王道学園に染まりそうで恐ろしい。 「白峰はあのホスト教…じゃなくて、イケメンな本城先生に興味無いの?」 「もう見慣れてるから」 「見慣れ…?あぁ、そっか。何年もこの学園通ってたらそりゃ見慣れもするか」 「んー、そういうのとは違うけど」 「じゃあどういうのなの」 「だってアレ、僕の叔父さんだもん」 …………………………え??????? えっ!!!!!!!!!! もはや声も出ない。 叔父さん?オジサン?尾地さん……?た、確かにそう言われればどことなく似ているような……いや似てねえわ。1ミリも似てねえ。俺は白峰の方が100000倍タイプ。いや違うだろ何言ってんだ。水瀬キャパオーバー。つかアレ呼ばわりするとか、白峰て結構毒舌? 「叔父さん、って…」 「そのまんまの意味だよ。……まあ崇裕おじさんって呼ぶと怒るけど、」 「おいコラ、俺が話してんのになにお構いなく喋ってんだそこ」 やっっべ。 あまりの衝撃にこの会話が本城withチワワのドタバタ☆HRの最中に行われていたことをすっかり忘れていた。俺としたことが。 「すみません。本城先生のお話があまりにも長いのでついこちらも話し込んでしまいました」 「想良テメェ…………」 「っ俺が最初に話しかけましたっ!ごめんなさい!!」 甥っ子にガチ切れすんなクソ教師が。いや、白峰が喧嘩売りすぎな。こんなん誰でも怒るわ。温厚なおじいちゃん先生であろうとキレ散らかすわ。でも俺は好き。白峰のキャラ、とても好き。 後々めんどいことになるのも嫌だからせめて俺からちゃんと謝っとこ。 「素直に言えば良いってもんじゃねえんだぞ」 「……あー、…以後気をつけます」 「編入生のお前のために話してんだからちゃんと聞け」 「え?」 「クラスは違えどみんな昔っからの知り合いだかんな。新しいメンツといえば水瀬だけだ。水瀬のためにみんなが自己紹介の時間取ろうっつってくれてんだ、感謝しろよ」 「それは……ありがとうございます」 なんか、うん。 それは素直に嬉しい。へへ。思わず顔がにやけてしまう。やっぱり外部編入生なんてお金じゃ入れないから学力に縋って貧乏晒してるようなもんだし、庶民がクソ虫がって罵られ虐められるかなぁなんて覚悟を決めつつ編入したわけですから。そんなんされたらたまったもんじゃないけどな。なのにこんなに暖かく迎え入れてくれるだなんて。王道学園は吐き気がするけど、生徒や先生の大部分はモブキャラなわけですし。王道展開に関係ない子たちの心温まる歓迎はシンプルに嬉しかった。 「…、それお前、わざとやってんのか」 「は?」 「……無自覚かよ、タチ悪ぃな」 俺の心から出たにやけ顔にケチつけられましても困りますよ、先生。でもまあ俺今機嫌いいから許してあげる。 「イケメンのふにゃふにゃ笑顔眼福すぎて今なら切腹できる…!!!」 「かっこいいだけじゃないのかよ……………ずるい、ずるすぎるぞ水瀬……!!好き」 「かわいすぎて心停止してたわ」 「抱かれたいのに抱きたいぞ!?!?何だこの気持ちは!!!!!」 「落ちた???ホスト完全に落ちたよね????」 「…もしかしなくても、水瀬くんって相当な誑し?」 自己紹介を終えたHR終わり、白峰に心外なことを言われて俺の学園生活は幕を開けた。
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