爽やかの確立

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編入初日の授業、長かった。もうダメかと思ったくらいには。 ……まあまだ午前中を終えただけなんだけどね。はははっ。国内随一のエリート校をなめていた。初日からこんなぶっ飛ばすと思わなかったです。早くもあのゆったりスピードの中学に戻りたい。あまりにも辛い。 とりあえず、午後の授業を乗り切るために大切なことは午前中の疲れ回復ただひとつ。そう、昼食!ランチ!(ここで盛大な音楽。) 俺は食べることが大好きだ。 他のどんなことよりも。その証拠に、小学生の頃出来た彼女に「あたしよりもごはんをみつめてるときのおめめのほうがしあわせそうで、うわきされたきぶんになるわ」と言われ振られたことがある。どんな小学生だよ。…かわいかったなぁ、ありさちゃん。 「伊織、一緒にメシ食おうぜ」 「あたぼーよっ」 「テンションどうした」 俺の壱馬くんが今日もかわいい。まあ出会ったのは今日だけどね。初日にこんなに仲良くなったんの奇跡だろ。男ってフッ軽で最高だな。 「悠里も誘おっか」 「アイツもか?…分かった」 「じゃ悠里、一緒に食堂行こ」 「ねえ馬鹿なの???なんでだよ2人で行けよ。そこに加わるのは王道転校生だけなんだよ腐男子は加わっちゃいけないんだよ分かれよ」 「いいから行くぞ」 「あ゛ぁ!!!!離せ!!!離せぇぇぇえ!!!!!!」 …なんか。 悠里って、学校違ってたまに会うからこそ楽しかったんだなって思う。同じ学校にいるとめちゃくちゃ鬱陶しい。壱馬と協力して食堂まで連れていこうとしたとき、白峰と目が合った。どこぞの絵文字のまんまの苦笑い。俺、惨めになってきたぞ。 「ちょっ、ねえ!!!謝るから置いてくなよ!」 「2人で行けって言ったのどっちだよ」 「冗談に決まってるじゃん!腐男子ジョークだよ〜?あは、あはははっ」 「ぜんぜん笑えない」 「ごめんってば!!!!」 そんな怒ってないけどな。 押してダメなら引いてみろ。押したのかどうかはわからないけど。無理やり引っ張っていた腕を離して壱馬と歩き出したら、悠里はようやく焦りだした。なんだよ、やっぱり俺と食いてえんじゃん。かわいいヤツめ。さっきまでボロクソに言っていた俺の発言は、ぜひ忘れてくれると助かる。君のために忘却光線でも用意するよ。 「俺の一日はご飯を食べるためにあるんだよ。この時間だけは誰にも邪魔させないからな」 「……飯が好きなのか、?」 「あー、伊織ってそういえばそうだった、、昔ご飯中に腐トークを繰り広げて伊織にちゃぶ台ひっくり返されたこと思い出した…………」 そこで俺は思い出した。 王道学園における、食堂の存在について。 「……なあ、悠里」 「ん?」 「耳栓、持ってる???」 「…もちろん。この俺が切らしてるわけないでしょーが。ほれ」 「さんきゅ」 「壱馬も…って、もう付けてる……流石だな、もう慣れてるのか」 「なんか言ったか?」 「んーや、なんも」 よかった。気づくのがとびら開けてからじゃなくて。今日編入してきたばかりの俺だけならまだしも、悠里も壱馬も文句無しに顔がいい。耳栓なしに近くにいたら、控えめに言って死ぬ。控えめじゃなくても死ぬ。なんせここは王道学園。全校生徒が集まる食堂なんて、……分かるだろう。察してくれ。 食堂の戸が開く音がした。と、思う。正確には、耳栓という強力な武器を身につけているため、俺たちにその音は全く聞こえなかった。無論、大きな戸の音が聞こえなかったのだから他の雑音が聞こえるわけな──────────超音波かなにかなのか? 「ぎゃぁぁああっっ!!!鬼頭さん抱いてぇ……!!!!、って、え?」 「鬼頭総長がひとりじゃない…だと……!?」 「一緒にいるのって、、っえ、え、え!?嘘!!!」 「悠里ちゃんじゃん!!!!?え、そこの2人!?意外すぎる……!」 「俺の四賀がヤンキーと…?俺に抱かれる前に、 …?」 「いや待てその右のとんでもないレベチなイケメンは誰ですかキャパオーバー」 「もしかして噂の爽やかイケメン編入生!?初日から学年を超えて噂になってるあの子!?ですよね!?じゃなきゃあんなイケメン僕知らないよめっちゃタイプ」 「タチネコどっちだろうどっちにもウケそうな顔してる…………」 しかも一言一句聞こえるんですけど君たちってなんの魔法使われてますか?つか壱馬、総長って呼ばれてんのウケる。めっちゃおもろい。噂とかほんとにやめて欲しい俺はノンケです。悪き母の餌食になった可哀想な「漢」です。これ耳栓使わなかったら死んでたなあ、冗談抜きに。もう諦めて収まってきた歓声(笑)を余所に耳栓を取って券売機に向かう。…券売機なのカッケーな。俺が当初行くはずだったため見学に行った高校は、確か購買のおばちゃんが直でお金のやり取りをしていた気がする。 え、待ってメニュー豪華すぎ。 うわたっか。待って高い。高すぎるよエリート校。編入生って悪く言えば学力で入るしか無かった貧乏人だから貧乏人にはちときついよこの値段。まあ高いのは致し方ない、よな。初日だし奮発しよう。これから始まる地獄のような学園生活を乗り越えるためだと思えば安いものだ。 今日は丼の気分。 なにがいっかな。…天丼!!!うわ、絶対美味いやつじゃん。えーでも親子丼とうな丼もめちゃくちゃ捨てがたいな。鰻だとちょっと値段は張るけど学食で鰻なんて最高だし、俺の体はいま庶民派の親子丼も欲してる。でも券売機から天丼もまた俺を魅了してくる。 とか何とか悩んでたら、隣で「ピッ」とボタンを押す音がした。続いて「ピッ」「ピッ」……あれ?なんで3人分の音? 「伊織さぁ、この3つで悩んでたでしょ〜。俺にはお見通しだぜっ!…てことで、3人で分けっこして食べよ?お値段は仲良く合計を割り勘な」 「俺もちょうど食ってみたかったヤツだし、…その、」 「悠里…壱馬……お前らが神か…」 「伊織って飯のことになると頭狂うよね」 こうして俺は、最高の友達のおかげでいちばんいい形で初めての学食を迎えることができた。
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