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決意
「おはようございます、」
亜希君の家を出てから自分の家に一度帰宅してシャワーを浴びて着替えてから事務所へ向かった。
まだ人がまばらの事務所内で、私の隣のデスクでコーヒーを飲みながらパソコン画面に向かっている瑛太さんに声を掛けた。
「あ、おはよう」
先ほどの電話でも普段通りの瑛太さんだったが、実際に会っても瑛太さんはいつも通りだった。
爽やかに笑って見せる瑛太さんとは対照的にまだ心臓がバクバク嫌な音を立てている私の顔はひどいものだろう。
「瑛太さん、あのっ…」
「まぁ、落ち着いて。広報部の方ともやり取りしてるけど…とりあえずえまちゃんから事実関係を聞かなくちゃいけないから」
「はい」
落ち着いて、と再度言って私に別室に移動するように言う彼に掠れた声で返事をした。
「まだ上には話してないんだけど、今日中に伝わると思う。で、亜希君とのことなんだけど付き合ってるの?」
「…いえ、付き合ってはいません。でも、写真の通りにデートはしました。これは私の責任です。元々の契約を反故にしたのは私です。なので…―」
私はマネージャーをする資格はない。
鞄の中から辞表を取り出した。瑛太さんはびっくりしたように目を見開いて私と辞表を交互に見る。
「…いや、時期尚早だと思うよ」
「亜希さんと男女の仲になったのは本当です。申し訳ありませんでした。社長にも本当のことを話して辞めます。元々亜希さんに惹かれ始めてから辞めることは頭の中にありました。でも、せっかく採用してもらったのにすぐにやめるのはあまりに社会人としての責任感がない行動だと思い、自分の気持ちに蓋をして彼に接していました」
瑛太さんは黙って私の話を聞く。
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