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―翌朝
まだ陽光がカーテンの隙間から漏れ出る前に俺はシャワーを浴びた。
気持ちよさそうに眠っているえまの頬に軽くキスをして家を出る。
その日の仕事は早めに終わった。
仕事中もスマートフォンを確認してえまから連絡が来ていないかチェックしていたが、えまは何か用がないと連絡をしてこない。
マネージャーだった時にも同様で、それは仕事だからかと思っていたのだがそもそも彼女は頻繁に連絡をしてこないようだ。
「そういえば、」
一度マンションへ帰宅してからまだ午後14時過ぎだった。
えまに今何してる?と連絡しても返事がない。
昨日服を買いに行くと言っていた記憶がよみがえる。
『近場で…恵比寿とかに行こうかなって。混んでるかなぁ…混んでるところあんまり好きじゃなくて』
えまから連絡が返ってこないから俺は恵比寿へ向かうことにした。
俺が俳優の“アキ”だとわかると、周囲に迷惑がかかるから基本外出する際はマスクをして帽子を深く被る。
えまと二人で出歩くときは出来るだけ変装をしたりコソコソするようなことはしたくない。
だが、えまに迷惑がかかることを思えば、俺の我儘をこれ以上ぶつけることは出来ない。
恵比寿までタクシーで向かい、変装用のマスクと帽子を被り、えまがいないか辺りを見渡す。
複合商業施設に入る。今日は土曜日ということもあり人で賑わっている。カップルやベビーカーを押しながら談笑する夫婦などを横目に女性用のブランドのショップを通り過ぎる。
「ま、タイミングよくいるわけないか」
独り言をつぶやいて、えまの好きなケーキでも買って帰ろうかと思ったその時。
「えま?」
髪を下ろして膝丈の白いワンピース姿の女性を捉えた。
それは、普段よりも綺麗な格好をしたえまだった。
1人で服を選んでいる様子だったが
「…誰?」
彼女に近づこうとしたときえまに「今泉さん」と声を掛ける見知らぬ男性を見て足が止まる。
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