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「あれ、森さん。こんにちは」
「こんにちは。偶然ですね。一人でここに?」
「そうです。ちょっと服でも買おうかなって」
「それにしてもびっくりしたなぁ。社内での雰囲気と全然違うから」
「…そう…ですかね」
男は長身で小顔、色白で誰もが眉目秀麗だというだろう。縁のない眼鏡をしていて俺とえまよりも若干年上に見えるがそれは知的で落ち着いた雰囲気を醸し出しているからかもしれない。
二人は顔を合わせてにこやかに会話をしている。
二人の関係性を知らなければ、きっとえまたちを恋人同士だと思うだろう。
自然に拳を作り、力を強めていた。
―もっと余裕を持ちたい
えまのことになると考えるより先に行動に出てしまう。きっと余裕がないのだろう。
ちょうどえまが手にしていた淡いピンク色のマーメイド型のワンピースを見て会話からしておそらく同じ会社の同僚である男が言った。
「それ、買うの?」
「…うーん、素敵だなぁとは思ったんですけど…私には似合わなそうだなって」
「そんなことないですよ。似合うと思う」
そういって微笑む男にえまは照れたように笑い返す。
それを見た瞬間、我慢が出来ずに俺は歩き出していた。
談笑するえまの肩に手をやり、ぐっと自分の方へ力をいれる。
そのせいで少し体が揺れるえまは驚いたように俺を見上げていた。
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