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「え、…あ、…亜希君?」
「何してんの」
「買い物を…」
イライラをぶつけたいわけじゃない。そうじゃない。
でも、近くで見ると普段以上に可愛らしく化粧をして綺麗な格好をした彼女が俺ではない違う男に楽しそうに笑っていたという事実が余計に苛々させる。
「えっと…もしかして彼氏さんですか」
「そうです。初めまして。宮沢と言います」
えまよりも驚いたように目を見開き、俺とえまを交互に見る男は直ぐに軽く会釈をして挨拶をする。
平然としているように見せて若干落胆の色を感じる瞳が俺を映す。
「初めまして、森と言います。今泉さんとは同じ部署で働いています」
「亜希君、森さんは私に仕事を色々教えてくれる先輩で…たまたまここで会ったんです」
「…あれ、今泉さんの彼氏さんって、」
俺を凝視するえまの会社の“先輩”は何かに気付いたようだった。
「え、もしかして…あの、俳優の?え?」
「そうです。えまがいつもお世話になってます。じゃあ、これで失礼します」
「あの!森さん!これは内緒に…」
「あぁ、うん。分かってるよ」
えまは何故ばらすのだ、という顔を向けてくるが知らない。俺はえまの手を引き、タクシーを拾った。
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