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「亜希君…その前に聞いて、ほしくて」
呼吸を整える暇もなく、私は思ったことをただ口にした。
そうしなければ彼との距離が離れてしまう気がしたからだ。
「いつもよりも頑張ってお洒落をしたのは…亜希君の為で、…」
私は以前の出来事を彼に正直に話した。自信をつけるために休日にお洒落をしたこと、そして亜希君に気を遣っているわけではないこと、森さんとは何もないこと、支離滅裂で自分でも落ち着いて話すべきことだとは理解しているのに一気に喋っていた。
「分かってるんです。亜希君は一般の人じゃないからやっぱり普通のカップルのように出歩くのは無理がある。でもそんなことを気にしていたんじゃなくて、…俳優のアキの彼女であるために自信をつけたかっただけなんです。だけど頑張っても亜希君の隣に相応しい女性にはなれません。だって元が違うんだもん」
亜希君が何度か瞬きをしてその瞳には既に怒気も悲しみもない。
ただ、驚いていた。
深く考えなくともそんなことは当たり前だった。一人で悩んでいたことが馬鹿らしくなった。
「…亜希君に誤解を招く行動をしてしまってごめんなさい。こんなことなら最初から不安を言えばよかった」
亜希君は、深く息を吐いて私の首元にコツン、と額をつける。
「謝るのは俺の方だよ。ごめん、ムキになって。俺の隣にいるのはえまがいい。別に努力とかもいらないよ、今のえまが好きなんだから」
「…はい」
「俺も色々考えてた。一般人ならえまと自由にデートも出来るし気を遣わせる必要もないって。だけど俺はどうしてもえまを手放せない。せっかく手に入ったのに、俺のものになったのにえまから離れることは出来なかった」
顔を少し上げて視線が重なる。涙を浮かべる私に優しく微笑む彼の頬を包み込むように手をやる。
「一生離す気ないけどいい?」
「もちろんです。私の隣には亜希君がいてほしい。ただ隣にいてほしいんです」
「それって意味わかってる?」
はい、と答えるが亜希君はわかってないでしょ、と私の頬を軽くつまむ。
まだ押し倒されたままのこの状況で徐々に空気が変わっていくのを感じながら曖昧に頷く。
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