8522人が本棚に入れています
本棚に追加
♢♢♢
十分に時間には余裕をもって家を出たはずだった。
しかし、電車の遅延でギリギリに最寄り駅に到着した。
五月も半ばだからか、少し走っただけで汗ばむ気温だ。
太陽の熱を吸ってアスファルトから跳ね返る熱が更に気温を上昇させる。
黒いパンプスに、膝丈のマーメイド型のスカートタイプのスーツ、セミロングの髪を丁寧に高い位置にポニーテールで結ってきた。
面接は第一印象が重要だ。派手にはならないように注意しながら品のあるメイクを施し口角を上げる。
緊張感を落とすように背を伸ばし地に足をつけ、真っ直ぐ歩く。
受付で用件を伝えると直ぐにエレベーターで十三階まで行くように伝えられる。
呼吸を整えるように大きく深呼吸をした。
エレベーターが開き下りると
「こんにちは、今泉さんですね」
と若い茶髪の男性が話しかけてきた。すぐに人事担当だと思った。
「こんにちは。本日11時からの面接予定で参りました、今泉えまと申します」
目元の柔らかい印象の若い男性は
「紹介通りの人だ。僕は徳田瑛太って言います。高橋と同じ大学ってことは僕とも同じだ」
と直ぐに砕けた口調で話す。
私も思わず「“瑛太”先輩ですか?」と返す。
華がいっていた“エイタ先輩”は彼のことだったのだ。
「そうそう、ちょうど人が足りなくてね。すぐクビになっちゃうんだよ」
「え…」
「あ、厳しいとかじゃないよ。別に体育会系のノリっていうわけでも残業代が出ないブラックっていうわけでもないから。まー、業務内容は不規則だからブラックといえばそうかもしれないけど」
目を瞬き、曖昧に頷く。
最初のコメントを投稿しよう!