1 覚えてない

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一服(いっぷく)中?」 「だったら何?」 「別に。タバコやめたって聞いてたから」 「……うっせぇな」  夏の日差しを背に、まだらな記憶を煙に起こす。 (昨夜はだいぶ、酔ってたからな……)  社会人も六年目となり、三十の大台まであと三ヶ月。  この年になると急増する、地元の友人の結婚式。 (それを祝ったまでは良かったんだが……)  しくったことに、何をどう間違えたんだか。今朝起きたら、俺の真横に知らない若造(わかぞう)が真っ(ぱだか)で寝ていた。  二時間前。  朝起きて、いの一番に伸びをする。 「ん〜〜……フーーッ……」 ((まぶ)しいな)  珍しくカーテンが開いている。 (俺。閉めないで寝ちまったのか……?)  昔から、真っ暗でないと寝られない。自分らしくない所業(しょぎょう)。 「にしても今朝は冷え……!」 (いま、何見えた?)  あり得ねぇ。寒いはずだ。俺、服着てねぇ。 (いや、それよりも)  白い布団からはみ出す自分の上半身より、もっとあり得ないものが。視界の(はし)に見えた気がする。 (待て待て、ないない!)  断じてない!  大体、いまのオトコ!! (い〜〜や、ちょいちょい!気のせいだわ。仕事のし過ぎだ。幻覚だ。ほら、ここ最近。締め切り近くて忙しかったし、特集ページの撮影だってあったわけで)  誰に説明するでもない。朝っぱらから自分を(なだ)めた。  空恐ろしくもありはしたが、仕方がない。  意を決して再び右を向く。左側が窓のウチの寝室。この場所が間違いなく自宅であると、視界からの情報が物語る。
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