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天井にある通気口へ、勢いよく吸い込まれて行く煙を見上げる。
編集部の喫煙室。視線を下ろすと飯島と目が合った。
「で?そういや、相楽。例のコとどうした?」
「んーー?」
「『んーー?』じゃないだろ?人に話すだけ話しといて」
あれから数週間が経って、週に二、三のペースで、遊は俺の家へ来るようになった。
別に頼んだわけじゃねぇが、話してる限り、育ちが悪そうにも見えない遊は。
来る度にウチを片付けようとする。
一度、
『ありがてぇけど。そういう便利屋みてぇな意味で付き合ってるわけじゃねぇから、やめろ』
と言ったら、抱いて欲しいとせがまれた。
(あいつの沸点が、俺には、よーわからん)
正方形のハイテーブル越しに、パーラメントメンソールを吹かす飯島を再び見る。
「別に普通」
「もしかして、お前…………」
「んだよ。そのリアクション」
「まさか。付き合い出したんじゃないだろうな?やめろ。相手に悪い」
ろくに長続きしない俺の恋愛遍歴を知る、数少ない同僚兼友人へ返す。
「いや、俺もそう思ってたんだが……」
「なんだ?どうした??」
「なんか今回は、違うっぽいわ」
口にして、青臭過ぎて顔を背ける。
「はっ?!」
俺の向かい側で、さぞかし驚いてるだろう飯島の顔を思い浮かべた。
くぐもったガラス壁へ話し続ける。
「つーか、あいつ。『蒼原』って苗字らしい。スゲーぽくてさ。一昨日ラーメン屋でメシ食ってて知ったんだが」
「はああ?!」
生真面目な同僚の、
『いままで知らなかったのか?』
って心の声が、聞こえてきそうで、肩を震わす。
灰が危うく床へ落ちかけて、仕方なしにテーブルへと振り返ったら、
「興味がないならやめろ。お前みたいな、フェロモン駄々漏れなやつは、相手する方がしんどいんだからな」
眉間にキツめの皺寄せて、黒縁眼鏡の奥から睨まれた。
「んなもん、出てねぇーよ。バーカ」
(さて、撮影の支度でもすっか)
タバコを捨て、伸びをした後、二人しかいない喫煙室を出た。
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