追伸

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「ハナ、うるさい!」 「ん?いない、便所か?あ、窓..閉まってる、.....寝よ」 私の部屋の襖の閉まる音。ついで、弟が自室の戸を開けるのが聞こえる。二回も叩き起こされても、寝つきのいいあの子のことだから、戻った瞬間に寝るだろう。私はそれを、2階の屋根の上で聞いていた。 口を塞がれながら。 「んんっ!」 「仏の顔モ三度まで、ト言うガ、僕ハ仏ではないので、3回も待つ道理はアリません、カラ」 口を押さえる手に力が籠る。 「モウ、ハナさんが何を言われてもギャアギャア、喚かないと、誓うのなら、部屋デ仲良ク、話してあげても構イませんよ」 夜風を浴びながら、大きく頷く。まだ、繋がっている首をしっかり使って。 「いいでしョウ」 窓を開け、室内に転がり込む。酸素を思い切り、肺に取り入れる。私はギャアギャア喚きたくなる気持ちを抑えつつ、目の前に正座するコウタロウさんを見た。 「あの、その、えっと、何で..コウタロウさんが、私の夫?で命の恩人?なのかしら」 いイ質問デすね、パチン、と手を叩く。物も、私も移動しないということは、本当に納得のパチン、か。 「君が頼み込ンだかラに他ナラない」 「え!?私が!?」 「君が、どうしても僕に嫁に貰ッてもらわないと死ンでも死に切れないと懇願するノで、マァ、仕方がナイですから、了承してあげまシた。」 ね、熱烈! 嘘でしょ、私、会って数時間、いや下手したら現実には1分も経ってないような関係の、いやなんならお腹に口のある殿方にそんな大胆なこと言ったの...。 三途の川に足を浸からせながら、命も結婚相手も手に入れようなんて、我ながら欲深すぎる。 「あのね、コウタロウさん。その、申し訳ないけれど、私、その時のこと全然覚えてませんの。だから、貴方もそんな脅迫まがいの求婚を、受け入れなくっても」 要約すると、きっとそれ何かの間違いです、という言葉を飲み込んで彼を見つめる。 「ヘェ、ハナさん、君って、39日間モ、夫のことを忘れていたカと思えば、ソンな事を言うんですね」 挙句、別ノ男に恋文ヲ書く始末。 そう言って、引き出しの方を指差す。 「これは、違いますわ!でも、そうね、39日も忘れていたのはごめんなさい。」 数えていたのは、ちょっと怖いけれど。 「コウタロウさん....あの日私を家まで運んでくださったのは、貴方よね?どうしてここが私の家だと、」 「記憶渡」 「ああ、それで...。」 良かった、元から知ってますから、とか言われると思った。 「でも、今私の部屋にいたのはどうしてかしら?忘れていたとはいえ、私もたぶん家の者も貴方を招いた覚えがないと思うのだけれど」 「別ニ、妻と夫が同じ家に、いルのは当然でショう」 何を言っているんだこいつ、という風に平然と言われる。 何を言っているんだこいつ、は貴方なんだけれど、とも思う。
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