01 安藤恭太

9/10
前へ
/170ページ
次へ
「そう言ってもらえるなんて思ってもみなかったよ。そういえば江坂さんは、何回生なんやっけ?」 「四回生です」 「おお、それなら同い年やし、タメ口でええよ」 「うん、そうする」  僕は水を得た魚のように自然と彼女との会話を進めることができた。  彼女は北海道出身で、こっちの大学にどうしても通いたいということで京都にやって来たそうだ。今ではすっかり京都の生活にハマっていて、お香を買ったり鴨川を散歩したりするのが好きらしい。僕は激しく同感しながら彼女の話の一つ一つに大袈裟なくらいの相槌を打った。 「わ、美味しそう!」 「すごい。ボリュームもありそうやね」  運ばれて来たパフェを前にして、彼女の目は一層輝きを見せた。なんて純粋で可愛らしいんだろう、と心の中で悶絶しつつ表面上はまんざらでもないと真顔をキープ。 「いただきます」  きちんと手を合わせてからスプーンを持つところに、育ちの良さが窺える。僕も彼女に倣って上品にパフェを食べようと努めた。僕が頼んだ「濃厚いちごクリームデラックスパフェ」は桃色に染まったクリームがふんだんに盛り付けられており、いかにも女子が好きそうな見た目をしている。味は、クリームの方が甘くて、いちごの酸味がほどよく溶け合い、口当たりが良かった。   「安藤くん、口の端にクリームついてる」 「え、え、ああ、ごめん」 「謝らなくていいのに」  彼女が僕の口をハンカチで拭ってくれるのを二秒ほど待ったがその様子はないらしい。渋々自分で口をふいた。  それにしても。  第一印象だが彼女は普通に良い子で、可愛らしくて、非の打ち所なんてないような気がする。それなのになぜ、彼女の元彼は彼女を振ったんだろうか。
/170ページ

最初のコメントを投稿しよう!

23人が本棚に入れています
本棚に追加