彼女の好きな花だったらしい

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「人生とは道のようなものです」 前原先生はそう言って微笑んだ。私は黙って先生の話を聞いている。私だけじゃなく、クラス中が静まり返っていた。黒板に書かれた「道」の文字を見つめる。 「色々な道があります。でこぼこ道、別れ道。時には迷うこともあるでしょう。だけど、生きている限り、道は続きます。短い道、長い道、色々あるでしょうが、生きている限りは続く道なのです」 先生は小さく息を吐き出した。 「……もう一度聞きます。兼谷さんをいじめていた人は手を挙げなさい」 それでも教室は静まり返っている。どのくらい沈黙が落ちただろう、普段は気の長い先生が教卓を両の拳で叩いた。 私の前席で白い百合の花が花瓶に挿されて揺れている。兼谷の幻を見る。セーラー服の後ろ姿。兼谷はデブだった。やけに広い肩幅も、ぶっとい足も、艶の無い髪も気に食わなかった。私は毎日彼女の椅子を蹴っていた。くせえんだよとか、死んでくれよとか、そういう言葉を吐きながら蹴っていた。でも皆笑ってたじゃないか。兼谷だって笑ってた。やめてよぉって笑ってた。 「兼谷さんの、まだまだ続くはずだった道を、可能性を、奪った自覚のある人は、いないのですか?」 前原先生の目が私を見ている。 だって知らなかったんだ、そんな簡単に自分の道を閉ざしてしまうとは思わなかったんだ、だって笑ってたじゃないか。 前原先生は私を見ている。 クラスメイトも私を見ている、気がする。 私は今、どの道を選べばいいのだろう。 兼谷なんかと関わらない道を選べばよかった――
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