恨み地

2/3
前へ
/3ページ
次へ
 同じ道を、旧盆のころに通った。  買い物から帰る途中、あの長さ200メートルほどの細い裏道へ入ると、向こうから女性がひとり歩いてきた。  長袖の黒いワンピースを着て、黒い帽子をかぶっている。周辺には墓地が何カ所かあるので、きっと法事の帰りなのだろうと思った。実際、線香のにおいがかすかに漂っている。ただ、女性なら、エチケットとして小さな手提げバッグくらい持っていてもいいと思うのだが、手ぶらというのはどうなのだろう。  その日は土曜日で、納涼の盆踊り大会があちらこちらで行われていた。風に乗って伝わってくる歌や太鼓の音が心地よい。しかし、この裏道へ入ると、不思議と静まり返る。8月も半ばをすぎれば日もだいぶ傾き、夕暮れ時になってもまだ明るい国道に対し、裏道は薄暗くなる。ときおり吹き抜ける風が、妙に冷たく感じられる。その日は曇っていたので、さらに暗くなった。  女性をあまり見るのは失礼なので、道の端を、前を見据えてゆっくり走った。  そのまま通りすぎるかと思ったが、何となく視線を感じる。日ごろ歩行者からの視線を受けることが多いのだが、その女性は違う意味で見ている感じがした。数メートル前から、歩きながらこちらを見ているのが、見なくてもわかった。そのまま突っ切ろうとすると、女性は歩く速度をゆるめ、目だけを動かし、明らかにこちらを見据えている。  何となく気味が悪いので、女性を見ないように、地面を見ながら車椅子の速度を上げた。  すると、女性がすれ違いざまに何かつぶやいているのが聞こえた。  そのまま女性を通りすぎて事なきを得たが、後ろを振り返って確認する勇気はなかった。
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加