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ある新盆のころの話だ。
買い物の帰り道のこと。7月中旬の夜8時といえば、近年は昼間の暑さが冷めやらず、最低気温でさえ連日30度を超えるのだが、その年は、昼間は33度くらいまで上がるものの、夜は30度を下回るので、ずいぶんすごしやすかった。
その日は特に気温が低く、無風でも体感では25度くらいに感じられた。街灯に照らされて明るい国道から裏道へ一歩入ると、それまで目立たなかった電動車椅子のライトが前方を明るく照らす。小さいライトだが、意外と明るい。
そんなライトに、どこからともなく小さな虫が寄ってくる。たまにコガネムシやハナムグリといった昆虫が暗闇から突然現れることもある。
しばらく走っていると、首筋に何かが触れた。びっくりして振り払った。すぐ車椅子を止め、手持ちのフラッシュライトで周辺を確認するが、何もない。だれもいない。
昆虫がぶつかったか止まろうとしたのだろうか。それにしては触れた範囲が広かった。付近に雑草も植え込みもないので、葉先が触れたのでもない。そもそも感覚として、昆虫のかぎ爪や葉先などのとげとげしいものではない。シルクか何かの、薄くて滑らかな生地で肌の表面を撫でられたような感覚だ。
触られた箇所を確かめるかのように、その感覚を消そうとするかのように、無意識に首筋をさすった。いや、あれは絶対に気のせいではない。いったい何が触ったのだろう。
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