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外回りから戻ってきた職員が事務所の入り口で、おい、さっきそこで事故があったぞ、と話している。
「死んだか?」
「もう運ばれちゃってるからわからないけど、血は流れてなかった」
希代子さんは彼らの声を背中に、廊下に出た。
7階の印刷室の鍵を管理している県民スポーツ課の総務席に行き、担当職員に印刷室を使いたいことを伝え、無言で渡される印刷室の貸出ノートに日付と時間、自分の名前と所属部署を記入して職員に返し、壁に一列にぶら下がった各職務室用鍵の中から印刷室、とテプラで打たれたのを一つとってまた廊下に出た。
けっこう歩いて、人がいないところまで来ると、ぽつんと印刷室がある。
扉を開け、すぐ横にあるスイッチを入れると、ぱ、ぱ、ぱ、と蛍光灯が遠慮がちにともる。
ここに窓はなく、印刷機が2台と、ソーターとコピー機が1台ずつ置いてある。
紙は各課で用意して持ってくる決まりなので、希代子さんはA4コピー用紙500枚を一包み持ってきている。
殺風景な小部屋で、ひとり黙々と印刷を始めた。
希代子さんは今年40才になる。
アルバイトを始めて半年経った。
県庁の県民生活部県民文化課に所属している。
職員たちは県の文化振興のために、博物館や美術館の管理をし、芸術活動の促進のために年に一度の文化祭を催したり、功労者を表彰したりする。
アルバイトは、彼らと同じ仕事をするのではなく、忙しい彼らに代わってお茶くみ、ごみ捨て、整理整頓、郵便物の配布、書類の受け渡しなどの雑用をする。
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