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職場のお昼休みは、天井の蛍光灯を消して、窓から入る外の光の中、事務所で昼食をとる。
節電のために電気を消すのはだいぶ前からの習慣で、職員もバイトもお弁当を持ってきたり、館内に売りに来るお弁当屋さんのワンコイン弁当を買ったり、コンビニのおにぎりやパンなどで、薄暗い事務所の中の自分の机で食事をする。
職員の机にはそれぞれノートパソコンがあるので、それを開いたまま、覗き込みながら食べる人、うつむいてもくもく食べる人、周りが静かなので、遠慮して小声でおしゃべりしながら食べる人がいるなか、希代子さんは事務用のペン立てや頼まれた整理中の数枚の書類しかない、がらんとしたデスクでお弁当を広げる。
ここの職員は3年くらいで異動するので慣れ合う人はあまりいなくて、一人で行動する人が多い。
だから希代子さんも疎外感をあまり味わうことはない。
来たばかりの頃はあまりにも静かなので、自分のお弁当に入れたきゅうりの浅漬けを噛むときに音が出ないようにそっと歯を立てるという変な努力をしたけれど、今では堂々と根菜も筋の多い野菜も噛みしめている。
向かいの席に座る加藤さんは、毎日豪勢なお弁当を持ってきている。
色どり華やかで、希代子さんは結婚していた時もそんなすごいお弁当を作ったことはなかった。
聞くところによると、加藤さんは仕事帰りに料理教室に通い、初級から初めて、中級、上級と進み、いまやおもてなしもできる特別クラスにいる。
「花嫁修業のつもりが、なんだか面白くなって、ここまできちゃいましたあ」
と仕出し弁当みたいなお弁当を開いて見せる。
希代子さんはすごいねえ、と素直に感心する。周りの人たちは話を聞いているような聞いてないような距離感をかもし出し黙々と自分の席に向かって食事をする。
「ダイエットしてるんですかあ」
加藤さんは希代子さんのお弁当を覗き込む。希代子さんの弁当の中身は玄米ご飯と野菜のことが多い。
希代子さんは、うん、まあねと適当に答える。
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