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私は少女の手から本を取ってゆっくり開いた。私が最後に書いた物語もそこに在る。それは友情の物語りで、夢に向かっていく少女たちの話だった。順也の文章に比べたら、稚拙で、ストーリーも大したことなかったのだけれど。
「…懐かしい」
いつの間にか開かなくなっていた思い出の本。真っ青な空に真っ白な雲の写真が描かれた表紙。誇らしげにゴシック体で書かれた『未来への言葉たち』というタイトル。
少し眺めて少女の手に本を返す。
「夢、叶うといいね」
あなたのこの先十年は幸せでありますよに。後輩のために私は祈った。私のようになりませんように。
「ありがとうございます!」
元気な声に羨ましささえ感じる。
「お姉さんの夢は?」
「へ?」
唐突な問いに、私はちょっとだけ高くなった声を返した。いや、返したというより漏れたという感じで、少女の顔を見たまま固まった。
「夢、お姉さんにもあるでしょ?」
「………」
あって当然のような少女の言い方に、最初の驚きは形を変え、じわっと怒りのようなものがこみ上げる。
「ないわよ」
乾いた低い声、自分でも嫌な答え方だなという響きが耳に届いた。
「もう叶えたんですか?」
苛立ちが顔に出ているような気がして、私は下を向いた。木の黒い影が、くっきりと彼女と私の間に線を引いている。
私の夢、それは順也を支えることだった。もう過去形の夢。彼が書くためなら私は自分のことなんてどっちでも…。
「…え?」
自分の、こと?
え、ちょっと待って。
「…お姉さん?」
俯いたままの私に、戸惑ったような、心配そうな声がかけられた。少しだけ目線を上げる。そこには、青い空に白い雲の写真。
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