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10 years since then, 10 years from now
十年前卒業した田舎の高校が廃校になると聞き、久々に故郷に帰ってきた。最後に一度見ておきたい…いや、帰ってきたのはそれだけが理由じゃない。
もう、疲れた。
大学を出てすぐ結婚したのは、この高校の文芸部で一緒だった人。私も書いていたけど、彼には敵わない。私が『才能』という言葉を意識したのは彼の文章に出会ってからだと思う。
「香、結婚しよう」
そう言われた時は嬉しくて、迷うことなく頷いた。
「ありがとう順也」
彼のつむぎ出す言葉が好きだった。小説家を目指す彼を応援したかった。大学時代に彼は、いくつかの文芸賞に入選していたし、あと一歩でプロの作家になれる、私だけでなく本人もそう信じていたはずだ。
でも、現実は厳しかった。
新しく書かれたものへの酷評。仕方なく流行りの題材に手を着けてはみたものの、自分が興味の沸かないものに良い評価が下される訳もなく…。
彼は次第に書けなくなっていった。
「お前だって書きたいんなら書けばいいだろ!」
「私はいいよ、私は順也の応援で」
「それでパート増やして?あてつけかよ!」
苛立ちが部屋中に蔓延していた、あの頃。
「お姉さん卒業生?」
不意に声をかけられて振り返ると、制服姿の女の子が立っていた。胸には古い本を抱えている。突然のことに、一瞬ぽかんとしてしまった私に気付いたのか、彼女は「あ」と小さな声を漏らすと、ぺこりと頭を下げた。
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