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ラジオの場合
「猫ってのは以外と臆病で、車の下なんかに身を隠しているんだよ。だから腰を屈めて良く見るんだ」
夕方、涼しくなってきてから出掛けた県境。
俺は猫と事件の解決策を見つけようとしていた。
「一挙両得か?」
「馬鹿げているだろ? でも一石二鳥も狙ってやっている」
俺の発言にラジオは鼻で笑った。
「『ナイフで刺されたのは此処かな?』事件現場の近くで独り言を呟いた。其処には県警が付けたと思われる印があったからだ」
俺はあの日の出来事を話し始めた。
「俺が其処に向かって手を合わせていると、誰かがやってきた。『そうなんですよ。本当に怖い世の中になりましたよね?』その人は頼んでもいないのに、事件の一部始終を語り始めた。どうやら事件を見物していた野次馬の一人だったようだ」
「誰ですかそれ?」
「この前殺された人だ。『一度目はナイフで、二度目は自転車に乗った犯人に体を蹴られたそうです』ってその人は言った。俺は何? コッチは犯人が自転車に乗っていたのか? って思った」
「そう言やあ、最初に起きた埼玉の事件に自転車は出てこなかったな」
「そうなんだ。可哀想に埼玉での二度目の犠牲者になった女子高生はその後でナイフで刺されたようだ」
「でも結局最後は同じか?」
「そうだな。一方的に話し掛けてくる人をいい加減に扱うことも出来ないので、近くのコンビニに移動することにした。『ところで、何故俺に?』それが一番知りたいから聞いてみた。すると、『あっ、ホラさっき警視庁の刑事さんと居たでょ。だからもしかしたら埼玉県側の事件を捜索している刑事さんかもと思って……』って言った」
「もしかして現役の刑事だと勘違いしたのか?」
「俺は少し気を良くした。だってまだ見えるってことだろ? だから『いや、俺は刑事じゃないんだ。刑事だったことはあるけどな』って言ってやった」
「ふっ」
堪らずラジオが笑った。
「だって何か不都合なことがあってからでは遅いだろ? だから正直に打ち明けるこっにしたんだ。『えっ、違うんですか? 何だ、話して損した』って言った」
「損って何だ?」
「さあ、解らない」
「何だそりゃ」
「でも話しを其処で終える訳にはいかないから『熊谷で探偵事務所を構えている磐城と申します。石井とは同期でした』と言いながら俺は慌てて名刺を差し出した。そしたら『あっ、あの刑事さん石井さんと言うのですか?」って言った」
「それヤバくない? ヤツは警視庁の刑事だろ? 個人情報を教えてしまったら……」
「そうだけどな」
俺は気まずくなったけど話を続けた。
「『熊谷の探偵さんが何故此処に?』その人は俺に興味をもったようだ。実は俺もそうだった。何だが今回の事件に無関係だとは言い難い情報を沢山持っている人だと思ったのだ。それは元刑事の勘とでも言える代物だった」
「元刑事の勘ね」
ラジオはまだ笑っていた。
「ところが、その名詞が警視庁で問題になっているらしいんだ。石井はそれで俺を脅してきた。って思って……」
「もしかしたら依頼したことを言うなってこと?」
「それもあるらしいけど、本気で俺を犯人だと思っているふしもある」
俺はラジオに苦しい胸の内を打ち明けていた。
「ヤツだったら遣りかねない。俺を犯人だと決め付けて、オマケに弁護士と結託した」
「えっ、嘘だろ?」
「そうとしか考えられない。俺を散々痛めつけておいて、『裁判で戦って無罪にすればいい』って言わせた。弁護士を丸め込んだのかも知れないな」
「石井は確かに目の敵にしていたけど」
「頭だった頃、捕まえられなかったから腹癒せだったらしい。はなっから無実だって思っていなかったんだよ。イヤ、是が非でも犯人に仕立て上るつもりだったんだよ」
「だから俺がいくら無実を訴えても聞く耳を持っていなかったのか?」
「その通りだ。だから族の仲間だったヤツに……」
「ホンボシに共犯が居るって言わせたのか?」
俺の質問にラジオは頷いた。
ラジオの無念さが胸に沁みる。それは今の俺には良く解る。まさか石井がそれほど悪だったとは。そんなヤツに弱味を握られた俺はこれからどうなるのだろうか?
そんな状況でも俺は迷子の猫探しをしていた。実は埼玉県側で起きた事件の橋の近くで行方不明になっていたのだ。
「熊谷から此処まで良く来るな」
「国道で繋がっているからな。それに事件も調べられると思って引き受けた訳だ」
「探偵の仕事も大変だな」
「刑事だったから尾行は馴れているし、でもやはりペットレスキューはなあ」
俺は本音を漏らしていた。
国道に架かる橋の二つの現場を往復して確かめた後、埼玉県側の脇道を入ると下の河川敷がある。其処に車を止めた。
「これは猫の習性だけど、本能的に水に濡れることを嫌うため、雨の日は物陰に隠れ人前に姿を現さないんだ」
「でも、此処なら違うのか?」
「橋の下だからな」
俺は其処に幾つかのトラップを仕掛けてから川に近付いた。
「猫は生活音や騒音の少ない深夜や早朝に活動することが多いんだ」
「又明日来るのか?」
「ああ、でも今夜って手もあるな」
「それじゃ、このまま此処に居る気なのか?」
ラジオの質問に頷いた。実は俺は川で釣りをしている人が気になっていたのだ。
俺はそっと近付いてみた。
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