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事件は闇の中
「汚いな石井は……」
車の中でラジオが言う。どうやら俺を陥れようとしていると気付いたようだ。
「『ちょっと待ってくれ。この男なら見覚えがある』石井はメモを取り出しながら言った。『間違いない。捜査現場を見ていたヤツだ』俺は石井が確信を得たのではないかと思った」
「それで会いに行ったのかな?」
「きっとその時あの名刺を見たのだろう。だから俺を疑った」
「疑うと言うより、俺みたいに陥れようとしたのではないのかな?」
ラジオが核心を突く。実は俺もそう確信してはいた。
「でも、何のために?」
「さあ」
実のところ俺達はまだ何も掴めてはいなかったのだ。
事件は闇の中だった。
俺はラジオを家まで送り届けた。玄関から懐かしい顔が現れた時、思わず涙が溢れた。
秩父の札所巡りで妻が殺された経緯を知った。石井がラジオを陥れるために仕組んだ事件。そのホンボシが犯人だった。ラジオを罠に掛けなければ防げた事件だと知りながら、石井は平然といたのだ。それが悔しい、腹立たしい。俺達の友情をいとも容易く崩したのだから……。
「妻を殺した犯人だと疑った。でも何故アリバイが立証されたんだ。石井が又悪巧みをしていたら……」
「そうだよな。実は俺はあの時留置場にいたんだ。せっかくの仮出所が取り消しになりかけた。それも石井の悪巧みだった。でもそのお陰で磐城の奥さんを殺せないと判断された」
ラジオは又辛い過去を語り始めた。
「すまん。俺は何かトリックでも使った のだろうと思っていた。だから俺は逮捕したんだ。あれは一体?」
「2、3日泊められたけど釈放された。その後でお前さんに捕まったってことだ」
「イヤ、本当にすまないことをした。ラジオが……、お前が妻を殺すはずがないと知っていたのに……」
「ラジオか……。あれは無銭飲食の無銭を無線に喩えたんだよな? それを救ってくれた奥さんを俺が殺すはずないだろう?」
「それは解っていた。でも身体が反応していた」
「俺も同じだった。『俺の女房を何処に隠した!?』そう言って、仕事に出掛けようとする場所へいきなり飛び込んだ」
「『ラジオ!?』俺は思わず叫んだら『まだそんな名前で呼んでいるのか!! やっぱりアンタは警視庁の人間だ』
俺の言葉に反応していた」
傍には奥さんがいる。それなのに俺はあの日の一部始終を語っていた。
「俺はあの時怒りに身を任せて、ラジオを必要以上に追い回した。本当はラジオが犯人ではないと思っていた。だけど妻を守れなかった後悔が俺に襲い掛かった」
「それも皆石井の悪巧みが原因だったなんて……」
ラジオは泣いてくれていた。傍にいた奥さんも同じだった。
俺は思わず二人の肩を抱いた。
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