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依頼主は元同僚
俺は久し振りに元の職場を訪ねていた。アイツの推理も一里あると思ったからだった。
それでも中に入ることははばかられた。だから誰か見知った者が出てくることに期待して駐車場で待ってみることにした。
警察には非番ってのがあって、午前中で仕事を繰り上げるのだ。当直開けだから疲れてはいるのけど仕方ない。
だからその時間帯に合わせることにしたのだ。
数分後に出会したのはかっての同僚だった石井(いしい)だ。
府中にある警視庁警察学校で知り合い、同じように捜査一課の一員になることを夢みたこともあった。実は刑事って役職はなく、刑事事件を捜査する巡査なのだ。
その言葉はマスコミやドラマが作り上げた物なのだ。
ただ便宜上俺は使っている。
警察学校は寮制だ。卒業までの十ヶ月を共に学ぶ。仲間の中でもそんなに親しい方ではなかったが、同じ職場に転入されて以来気になる存在だった。
「おい、石井」
そっと声を掛けてみた。
するとすぐに気付いたそうで俺の車に近付いてきた。
「なぁんだ、磐城か? 確か探偵やってるって聞いたけど、今日は一体何だ?」
石井は俺が警視庁を辞めた事実も、探偵を始めた経緯も知っている。だからラジオの推理を聞いてもらえると思っている。
(いい相談相手かも知れないな)
俺はこの偶然の出会いが、事件の方向性を決めるのではないかと思っていた。
「ところで今日は何だ?」
石井が質問してくれたことに気を良くしていた。
「実はこの前の通り魔の一件だけど、あの後進展あったのか?」
「ダメですよ。幾ら元腕利きだっだと言っても、事件の経緯なんて話せる訳がない」
石井は軽く俺をあしらった。
「違う。ある人の推理を聞いてもらいたいだけなんだ。その人が言うことによるとあれと、一週間前に起きた埼玉県の事件は連続しているらしい」
「連続通り魔事件ってことか?」
その質問に俺は頷いた。
「友人は、埼玉県と東京の境の橋のアッチとコッチで起きた事件だと言っていた」
「そう言えばそうだな?」
「きっと勘違いしてると思ったんだ。だからソイツの推理を聞いてもらおうと来たわけだ。其々の管轄が違うから合同捜査なんて無理だと思うけど、頭の中に入れておいてほしいんだ」
「解った。確かに東京と埼玉だから、別個の事件だと思い込んでいた節はあるな。そうだ、磐城の電話番号を教えてくれ」
石井はそう言ってから、スマホを取り出した。
俺は早速口頭で伝えることにした。
「ところで磐城、その友人って誰だ?」
石井にラジオのことを伝えるのは躊躇った。石井もアイツに濡れ衣を着せた一人だったからだ。
俺はその事実を思い出し、ラジオが気を悪くすることを懸念した。
「言えない人か?」
「ま、そんなとこだ。石井が気付いたこととして捜査会議でもあったら話してくれたら……」
「解った。そうする」
石井はそう言って警察署の中に入って行った。
でも、幾ら待ってもいい返事はきけなかった。
事件が解決したとの情報もなく、次の金曜日になった。
その日、又通り魔事件が発生した。
今度も埼玉県だった。
でも一度目の事件とは一線をかくしていて、連続とは言い難い状況だった。
「磐城の意見は通らなかった。皆、別個の事件だとみているようだ。確か磐城は埼玉に住んでいるだろ? 何か解ったら知らせてくれないか?」
それは石井からの仕事依頼だった。
でも石井にそんな気はないと判断した。
俺は金銭なんか関係ないと思い、タダでも遣る気だった。
それは事件に気付かせてくれたラジオへの配慮だった。
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