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東京の事件
俺は石井の非番の日を待って、ラジオの言っていた県境に行ってみた。
石井は私服だったけど、刑事だと知っている者が情報をくれた。
犠牲者は未だに入院しているらしいとのことだった。
(やはり現役は違うな)
俺は石井の行動に感心しきりだった。
事件のあらましはこうだった。
金曜日の黄昏時、橋に隣接する交差点付近で自転車に乗っていた高校生がハンドルをキックされ倒された。一瞬の出来事に何が何だか判らず、ボーッとしていると今度は頭を蹴られたそうだ。
犯人は犠牲者が乗っていた自転車で逃げ、近くにいた人が救急車を呼んでくれたそうだ。
(通り魔だっていうから、何かで刺されたのかもと思ったけど違うのか?)
俺は首を傾げた。
「これを埼玉の事件と結び付けるには無理がある。アッチではナイフ刺されているんだ」
石井は言った。
(やはりそうか?)
俺は報道された内容からでは二つの事件に繋がりがないと判断した。
元暴走族のラジオが見誤ったのではないかと疑った。
「ごめん。手間を掛けたな。今回のことは忘れてくれないか」
俺は謝りながら橋の向こうに目をやった。
「繋がりは橋のコッチとアッチで起きた事件だと言うことだけか?」
石井はそう言った後で考え込んでいた。
「何かあるのかも知れない。少し調べてみてくれないか」
それは石井からの本格的な捜査依頼だった。
「勿論個人的な依頼だ。だから代金は……」
「何言ってる。話したのは俺からだ。タダでいいに決まってる」
俺は石井の声を遮って発言した。口をついて出た時しまったと思った。でも俺はそれで納得した。
「そう言うことでよろしく。現役が探偵に仕事依頼したらやはりマズイだろう」
石井の言葉に頷いた。
(暫くはペット探しでもして食い繋ぐしかないか?)
俺は覚悟を決めた。それはラジオの勘を信じてみようと思ったからだった。
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