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ラジオと共に
石井は俺に脅しを掛けた後何も言って来なかった。勿論警察の事情聴取もなしだった。
それでも俺は何時それが行われるか気になった。そんな時に頼れるヤツはラジオだけだ。
俺がラジオに連絡を取るとすぐに熊谷に来てくれることになった。
アイツもその事件が気になっていたのだ。
『あの事件のこと聞いた?』
『あぁ、通り魔による殺人事件?』
『何だか嫌な事件が連続しているわね』
『もしかしたら犯人は一緒だったりして……』
『えっ、あれって連続通り魔事件なの?』
『聞いた話しによると、埼玉で最初に怪我をした高校生はナイフで、二度目は自転車に乗った犯人に体を蹴られたらしいわね。その自転車はあっちで奪われた物みたいよ』
『へぇーそうなんだ』
『一度目が埼玉で、二度が東京。次が埼玉……』
『それがこの前の殺人事件に繋がったの?』
俺は駐車場に居た奥様方の話しをラジオに聴かせた。
「つまり、俺の勘が当たったってことか?」
アイツは嬉しそうだった。
「その通りだな」
俺も本当は得意になるはずなのに、石井のことが気になる。
「俺の同期だった石井ってヤツ、覚えているか?」
俺が名前を出した途端にラジオの顔が曇った。
「ソイツだよ。俺を犯人に仕立てたヤツは」
(やはりそうか)
俺は本当は解っていたのだ。それなのに石井を頼ってしまった。
それでもラジオの名前を出さなかったことは良かったと考えていた。
「傷害事件の共犯者とされた人物が送検されて来た時顔を見て驚いた。『あの事件だったら、コイツにはアリバイがあるはずです』と、俺は言い張った」
「それは聞かされなかった」
「えっ嘘だろう? 『電話があったようだな。でもそれは事件現場のすぐ近くだそうだ。お前はコイツに騙されたんだよ。暴走族の頭だから、顔を知らない奴はいないんだ』石井のその言葉で俺は黙ってしまった」
「あの刑事は頭だった俺を目の仇にしていた。だからかな? 本当に尋問はきつかった」
「犯行時間直後。現場近くの道で、携帯電話を掛けている人が目撃された。丁度その頃俺に電話があった。『もしかしたらアイツは其処で掛けてきたのか?』きっと俺のその一言が仇になったんだな」
ラジオは何も言わずに聞いていた。
「事件の真相は闇に包まれていた。ホンボシが共犯者として名前を上げたので逮捕しただけだそうだ。勿論俺は意義を申し立てた。奥さん思いのお前がこんなことをするはずがなかったからだ」
「俺にはお前さんが認めたと言った。それで誰も信じられなくなったんだ。尋問と言うより拷問だった。眠いのに寝かせてくれないんだ。そんな疲れきった身体に悪魔が囁いた」
「もしかしたら弁護士の『罪を認めても裁判でひっくり返せる』か?」
ラジオは俺の言葉に頷いた。
「でも裁判ではそれは通じなかった。オマケに俺がホンボシになっていた」
ラジオは泣いていた。
その話しは秩父巡礼の夜に聞いていた。それも石井の悪巧みだったのだろうか?
「アイツが交通機動隊だった頃、俺は頭だった。だから捕まえたくて仕方なかったんだ」
「そうだ。確かにアイツは刑事になる前白バイに乗っていた。俺が幾らアリバイを主張しても聞く耳を持たなかったのはそう言うことか?」
そう言った途端、怖くなった。
もしかしたら今回の事件の重要参考人に仕立てられてるかも知れないと思ったからだった。
「ところで何でアイツの名前が出て来たんだ?」
俺の心配事がラジオに伝わったらしい。でも言えるはずがない。ラジオが連続通り魔だと言ったことが俺が石井に疑われるきっかけになった事実を……。
「熊谷にはクーリングシェルターってのがある。猛烈な暑さになると公共施設や商業施設など10箇所に開設されるんだ」
俺は関係のない話を始めた。
「最高気温が37度を越えた日に初めて使用された施設だ。小耳に挟んだ時行ってみたいと思っていた。でも未だに行けてない。そんなことより、俺は夕方からのペット捜索なんだ。良かったら一緒行かないか?」
「クーリングシェルターか? それとも猫探しか?」
「勿論猫探しだ」
そう言った途端にラジオは笑った。
俺は早速駐車場に行き車を開けた。その途端にムッとなった。
「助手席のドアをバタバタやってくれ」
俺はそう言いながら運転席側のドアに手を掛けた。少し暑さが和らいだのでエアコンのスイッチを入れる。
熱い熊谷は夕方になってもそのままだった。
俺はそんな暑い車で県境の橋を目指すことにした。
「俺は猫探し以外に奥様方の捜索にも余念はなかった。時折迷子の猫の飼い主と連絡を取り合う。もし家に帰ってきたいたら無駄足になるからだ」
「無駄足? それなら何故其処に?」
ラジオには隠し事は出来ないと察して、死亡した被害者に接触したことを石井に打ち明けたことを話した。
「もしかしたら、それで石井に脅されたのか?」
仕方なく頷いた。
「アイツが遣りそうなことだ」
ラジオは納得したように俺をハグした。
「此処から見える景色、いいだろ?」
ラジオも関係ない話しを始めた。でもそれに意味があると感じ俺は次の言葉を待つのとにした。
「彼女と出逢った場所だ」
「奥様と?」
ラジオは頷いた。
「彼女によって俺は変わられた。だけど、あの婦警さんがそのために殺されてしまった。本当に申し訳ないことをした。やはり俺は普通には生きていけないのかな?」
ラジオはしみじみと橋の向こうを見ていた。
「アッチにも行ってみるか?」
俺の言葉にラジオは頷いた。
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