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天使祝詞
高台の家に女が住んでいた。
女は身篭っていた。その証拠に日に日に腹は膨らんでいった。
「想像妊娠です」と医者は言った。
そんなはずはない、と女は思った。マリア様とて男を介さずに神の子を産んだのだ。医者には精神科を勧められたが女は頑として首を縦には振らなかった。
十月十日の後、女は独りで天使を産んだ。
産まれたての天使はその夜を女のもとで過ごした。満月と同じ髪をした天使は今まで聞いたこともない硝子のようなうつくしい声で「ありがとう」と言って飛び立って行った。女はそれをいつまでもいつまでも見送っていた。
「想像妊娠だったでしょう」とすっかり腹の萎んだ女を見て医者は言った。
「私、天使を産みましたの」と女は返した。
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