case5 真白

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 目的地にとーちゃくして、そっと中をのぞく。  いた。もくひょーはっけん。  木でできた小さなベンチにすわって、きらきらの男の子は本を読んでいた。おれやみんなとはちがう、ぎんいろのかみのけ。ねている間に雪がつもって、朝の光でかがやいているとき、こんな色になるのを思い出す。はだのいろも、おれたちよりずっと白い気がする。しらゆきもきれいな白いはだをしているけど、それよりももっとうすいいろ。同じ〝こども〟なのに、べつの生き物みたいだ。  男の子はおれにきづかないまま、ときどきしずかにページをめくっている。  どんな本を読んでいるんだろう?  めずらしく、ひのおせんせーがいっしょじゃない。一人でいるところを見るのは、はじめてだった。  これはもしかして、話しかけるぜっこーのチャンスというやつなのでは。  聞きたいことはたくさんあった。  その本なに? なんでいつもひのおせんせーといっしょにいるの? なんでおれたちとは別に生活してるの? いつもなにしてるの?どこの部屋にいるの? ともだちは?ほかのやつのことは知ってる? いつからはこにわにいるの? それから、それから。  考えれば考えるほど、心がうずうずしてきて、おれはかげからとびだして、男の子に話しかけた。 「おまえ、名前は!?」 「……っ!?」  男の子のからだがびくっとはねて、おれを見た。目をまんまるにしている。読んでいた本が男の子の手からこぼれて、足もとにいきおいよく落ちた。 「えっ……、あ、あの、……、だ、れ……?」 「おれ、ましろ! おまえは?」 「え、えっと……ぼく……僕、は……」  びくびく、おどおどしながら、男の子が小さな声でこたえる。 「僕は、……カイ、です……」 「そっかぁ! おまえ、カイっていうのか!」  カイの近くにかけよろうとしたら、カイはまたびくっとふるえた。カイってすごくこわがりなのかな。そう思って、こわがらせないように、そっと近づく。 「おれさ、前にこことカイを見つけてから、ずっと話しかけたかったんだ。どんなやつなんだろうって、ずっと気になってて。いつもはひのおせんせーといっしょにいるだろ? 今日はひとりだったから、つい」 「……僕のこと、知ってたの?」 「うん。でも、こわがらせちゃって、ごめんな」  おれがあやまると、カイは小さくくびをふった。 「僕、……その、僕や姉さん達以外に、ここに〝こども〟がいるって知らなくて……。だから、僕の方こそ、ごめんなさい」  小さな声をふりしぼって、カイもおれにあやまる。  おれはカイの足もとの本をひろって、カイにわたした。カイがそっと、本をうけとる。 「あのさ、おれ、ときどきあそびにきてもいい?おれ、もっとカイのことしりたい。おまえと、なかよくなりたい」 「僕も。……でも、日野尾(ひのお)先生に聞いてみないと……」 「うーん……じゃあさ、せんせーのいないときだけ、ひみつであそぶのは? ひみつのともだち。それならどう?」  おれよりちいさな、カイのかおをのぞきこむ。カイはすこしとまどったかおをしてから、くすっと笑った。カイの手をぎゅっとにぎって、おれも笑う。 「おれたち、これからともだちな! よろしく、カイ」 「……うん。よろしく、ましろちゃん」  はにかんだカイは、とってもとっても、きれいでかわいかった。    *    ともだち。ともだち。きらきらのかみのけの、カイ。  消灯前のベッドの中で、今日のことを思い出す。  どきどき、わくわく。くすぐったくて、心のあちこちがきらきら、ぱちぱち、はじけてるみたいだ。  こんなふうに、みんととも話せたらいいのに。もっといっしょに笑いあってすごせたら、ずっとすてきなのに。  みんとは、夕食のときにいなかった。また、悪いことをしてせんせーたちにおこられたらしい。しらゆきは、かおに大きなガーゼをあてていた。白いガーゼと白いはだのあいだが、赤くはれているようにみえた。もしかしたら、みんとがしらゆきに、なにかしたんだろうか。せんせーたちはなにもいわなかったけど、もしそうだったら、ってかんがえると、こわい。  昼間、せんせーから聞いた話を思い出す。  こうせーせかいかせつ。  いいことをしたら、いいことが返ってくる世界。  みんなが、なかよくできて、毎日が楽しい世界。もちろん、今だってそうだけど。それが、ずっとずっと続けばいいなって思うのは。そう思ってすごすのは。  もしも、この世界が、こうせーせかいかせつどおりの世界なら。    きっと、悪いことじゃないはずだ。    目を閉じる。今日がおわる。  明日もいい一日になりますように。
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