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目的地にとーちゃくして、そっと中をのぞく。
いた。もくひょーはっけん。
木でできた小さなベンチにすわって、きらきらの男の子は本を読んでいた。おれやみんなとはちがう、ぎんいろのかみのけ。ねている間に雪がつもって、朝の光でかがやいているとき、こんな色になるのを思い出す。はだのいろも、おれたちよりずっと白い気がする。しらゆきもきれいな白いはだをしているけど、それよりももっとうすいいろ。同じ〝こども〟なのに、べつの生き物みたいだ。
男の子はおれにきづかないまま、ときどきしずかにページをめくっている。
どんな本を読んでいるんだろう?
めずらしく、ひのおせんせーがいっしょじゃない。一人でいるところを見るのは、はじめてだった。
これはもしかして、話しかけるぜっこーのチャンスというやつなのでは。
聞きたいことはたくさんあった。
その本なに? なんでいつもひのおせんせーといっしょにいるの? なんでおれたちとは別に生活してるの? いつもなにしてるの?どこの部屋にいるの? ともだちは?ほかのやつのことは知ってる? いつからはこにわにいるの? それから、それから。
考えれば考えるほど、心がうずうずしてきて、おれはかげからとびだして、男の子に話しかけた。
「おまえ、名前は!?」
「……っ!?」
男の子のからだがびくっとはねて、おれを見た。目をまんまるにしている。読んでいた本が男の子の手からこぼれて、足もとにいきおいよく落ちた。
「えっ……、あ、あの、……、だ、れ……?」
「おれ、ましろ! おまえは?」
「え、えっと……ぼく……僕、は……」
びくびく、おどおどしながら、男の子が小さな声でこたえる。
「僕は、……カイ、です……」
「そっかぁ! おまえ、カイっていうのか!」
カイの近くにかけよろうとしたら、カイはまたびくっとふるえた。カイってすごくこわがりなのかな。そう思って、こわがらせないように、そっと近づく。
「おれさ、前にこことカイを見つけてから、ずっと話しかけたかったんだ。どんなやつなんだろうって、ずっと気になってて。いつもはひのおせんせーといっしょにいるだろ? 今日はひとりだったから、つい」
「……僕のこと、知ってたの?」
「うん。でも、こわがらせちゃって、ごめんな」
おれがあやまると、カイは小さくくびをふった。
「僕、……その、僕や姉さん達以外に、ここに〝こども〟がいるって知らなくて……。だから、僕の方こそ、ごめんなさい」
小さな声をふりしぼって、カイもおれにあやまる。
おれはカイの足もとの本をひろって、カイにわたした。カイがそっと、本をうけとる。
「あのさ、おれ、ときどきあそびにきてもいい?おれ、もっとカイのことしりたい。おまえと、なかよくなりたい」
「僕も。……でも、日野尾先生に聞いてみないと……」
「うーん……じゃあさ、せんせーのいないときだけ、ひみつであそぶのは? ひみつのともだち。それならどう?」
おれよりちいさな、カイのかおをのぞきこむ。カイはすこしとまどったかおをしてから、くすっと笑った。カイの手をぎゅっとにぎって、おれも笑う。
「おれたち、これからともだちな! よろしく、カイ」
「……うん。よろしく、ましろちゃん」
はにかんだカイは、とってもとっても、きれいでかわいかった。
*
ともだち。ともだち。きらきらのかみのけの、カイ。
消灯前のベッドの中で、今日のことを思い出す。
どきどき、わくわく。くすぐったくて、心のあちこちがきらきら、ぱちぱち、はじけてるみたいだ。
こんなふうに、みんととも話せたらいいのに。もっといっしょに笑いあってすごせたら、ずっとすてきなのに。
みんとは、夕食のときにいなかった。また、悪いことをしてせんせーたちにおこられたらしい。しらゆきは、かおに大きなガーゼをあてていた。白いガーゼと白いはだのあいだが、赤くはれているようにみえた。もしかしたら、みんとがしらゆきに、なにかしたんだろうか。せんせーたちはなにもいわなかったけど、もしそうだったら、ってかんがえると、こわい。
昼間、せんせーから聞いた話を思い出す。
こうせーせかいかせつ。
いいことをしたら、いいことが返ってくる世界。
みんなが、なかよくできて、毎日が楽しい世界。もちろん、今だってそうだけど。それが、ずっとずっと続けばいいなって思うのは。そう思ってすごすのは。
もしも、この世界が、こうせーせかいかせつどおりの世界なら。
きっと、悪いことじゃないはずだ。
目を閉じる。今日がおわる。
明日もいい一日になりますように。
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