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「先輩、大丈夫ですか?」
また、大神くんだ。まだ、追いかけて来ていたのか。わたしは泣いているところを見られたくなくて、下を向いたままでいた。おむすびが転がっていった跡に、艶やかな米粒が残っている。それを一羽の小鳥が啄んでいる。夜にもこんなに可愛らしい小鳥がいるのだな、とわたしは呑気に癒されながらそれを見た。見たこともないような綺麗な鳥だった。夏の青空が色移りしたような明るいコバルトブルー。幸せの青い鳥……。
「もう、突然走り出さないでくださいね?さあ、僕が送っていきますから帰りましょう」
大神くんは手の付けられない子供を宥めるような口調でそう言った。そして彼の手がわたしのティッシュでいっぱいの手に優しく触れ――
「待って、幸せの青い鳥!」
わたしの声に、大神くんは何か後ろめたいことでも見つけられたかのようにビクッとした。青い鳥も驚いて跳ね上がり、慌てた様子でバサバサ飛び去って行く。わたしは大神くんの行き場をなくした手にティッシュを押し付けると、青い鳥を追いかけた。今度こそ、捕まえてみせる!
青い鳥を追いかけた先は、駅前の放置自転車の森。わたしはそこに小鳥の姿を見つけたが、小鳥は一羽では無かった。たくさんの色とりどりの小鳥が地面を啄んでいて、青い鳥は紛れて分からなくなってしまう。わたしは小鳥達を驚かさないようにそっと近付いて、少し離れたところから様子を窺った。青い鳥はどこだろう?この小鳥達は何を啄んでいるのだろう?……小鳥達の嘴の先を見ると、そこにあるのはパンくずのようだった。たくさんのパンくずが地面にばら撒かれ、ずっと先の方まで道のようになっている。
……パンくずの道案内。わたしは小鳥たちに食べ尽くされない内に、それを辿っていった。
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