【4P】歌を忘れたカナリヤは

3/4
前へ
/4ページ
次へ
「あ、ローザ…」 家の間近で、ローザはピーターに出会った。 ピーターは、はにかみながら片手を上げた。 「ローザ…声の調子はどうだい? 良かったらこれ…」 ピーターは、ローザに蜂蜜の入った瓶を差し出した。 「ピーター…もしかして、今まで、ここに蜂蜜を差し入れてくれてたのはあなただったの?」 ピーターは、相変わらずはにかんだままで小さく頷いた。 「……でも、どうして? あなたはこの町で唯一、私に歌をせがまなかった。 あなたは私のことが嫌いなんじゃなかったの?」 ピーターは大きく目を見開き、首を振った。 「ローザ、それは誤解だよ。 君は、いつも誰かのために歌を歌ってた。 だから、僕までが頼んだら、君が余計に疲れてしまうんじゃないかと思って、それで…」 「まぁ…そうだったの? でも、どうして? こんな声になってしまった私に、どうしてあなたはこんなに優しくしてくれるの?」 「どうしてって…君は声が変わっただけじゃないか。 中身は何も変わらないだろう?」 「ピーター……」 ローザは、自分の勘違いを深く恥じた。 そして、以前の美しい声を失っても、まるで変わらず優しく接してくれるピーターに胸を熱くした。
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加