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 全体的に明るい体育館だった。人が少ないせいかもしれない。中学時代は部員たちがひしめき合うようにコート全体に散らばっていた。ちょうど体育館のもう半面を使って練習を始めようとしている女子バスケットボール部のように、琉聖のいた星川東中の男子バレー部も、三学年で部員五十名を超える大所帯だった。 「セッターがいないの、うちのチーム」  美砂都が紙コップに入った麦茶を琉聖に手渡しながら言った。 「煌我くんが一生懸命探してくれたんだけど、そもそもバレー経験者が少ないみたいで。なぜか女子のほうが多い学校だしね、実里丘は」  麦茶のコップを受け取りながら、琉聖は支柱に紐を結びつけている煌我を見やった。  なるほど、そういうことだったのか。昨日、おとといとおとなしくしていたのは、バレー部に入ってくれる新一年生を探していたからだったのだ。とりあえず試合に出られるだけの人数を揃えてもう一度琉聖を説得しようとしたのか、あるいは琉聖以外にセッターのできる人材を探していたのか。いずれにせよ、ヒットしたのはさっきD組の教室に現れた四人。そのうちひとりはバレー経験がなく、セッター経験者もゼロ。試合には出られても勝算はなさそうで、全国大会どころか、地方大会でさえどこまで上に行けるか見通せないような状況だった。 「それで、俺に入ってほしいと?」  マネージャーに尋ねるのはどうかと思いつつ訊いてみると、美砂都は曖昧に首を振った。 「私は純粋に興味があるだけ。全国レベルのセッターがどのくらいうまいのか」 「たいしたことないですよ。セッターなんて誰がやっても同じだと思うし」 「それは違うよ」  美砂都は即座に否定した。 「私もバレーやってたからわかる。セッターほど、実力の差が如実に表れるポジションはないと思う」 「へぇ、経験者なんですね」 「うん。ミドルブロッカーだったんだ」 「続けなくてよかったんですか? ここにもあるでしょ、女子バレー部」  美砂都は清々しく微笑んだ。 「中学の時、膝を痛めたの。激しい運動はもうできなくて」  清々しさの中に、あきらめと悲しみと後悔が同居していた。「すいません」と琉聖は余計な口を叩いたことを悔いた。 「やれるうちにやっておいたほうがいいこともあるよ」  美砂都はピンと張られたネットを見やった。 「あとになって『やっぱりやりたい』って思った時、やれなくなってたら悲しいじゃない」  口にこそ出さないけれど、「私はもうやれないから」と、スッと細められた美砂都のきれいなふたえの瞳が雄弁に物語っていた。
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