4.

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「琉聖!」  着替えてくると言って一度体育館を立ち去った四人の一年生と入れ替わりに、すでに練習着姿である煌我が、ばったりと倒れたままの琉聖の脇に片膝をついて背中をバシバシと景気よく叩いた。 「待ってたぞ! よく来てくれた!」 「酔った……動けん……」 「よし、さっそく練習だ!」  案の定、琉聖の言葉はまるっきり無視され、煌我は上機嫌で張りかけのネットに向かって歩き出した。 「大丈夫?」  冗談ではなく本当に立ち上がれずにいると、頭の上からみずみずしい女性の声が聞こえてきた。腹に力を入れて顔を上げると、男子バレー部の先輩である雨宮や伊達と同じ濃紺のジャージをまとった女子生徒が、高い位置でくくったポニーテールを揺らして琉聖を覗き込んでいた。 「きみね、久慈琉聖くんっていうのは」 「はぁ、どうも」 「時田(ときた)美砂都(みさと)です。(だん)バレのマネージャーだよ」  よろしくね、と言って手を差し伸べられ、琉聖は遠慮がちにその手を借りて床に座り、顔を上げた。  目の前に、バレーボールコートがあった。  九×九メートルの正方形を二つつなげ、間に二メートル四十三センチのネットを立てる。サイドライン、エンドライン、センターラインの他、各コート、ネットから三メートルの位置にも白線が引かれている。アタックラインといって、前衛のプレイヤーの攻撃位置を示すものだ。  ネットを立てるための支柱の脇に立った煌我が、逆サイドの支柱付近にいる雨宮と伊達に声をかけていた。三人でネットを張ろうとしているらしい。  心臓の鼓動が速くなるのを嫌でも感じた。  これから、この場所で、バレーボールが始まろうとしている。胸の奥で、なにかがざわざわと音を立てた。
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