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 まもなく昇降口が見えてくるというところで、琉聖はうっかり歩調を緩めてしまった。もっとも見たくない球体を手にし、濃紺のジャージを身にまとった男子生徒がふたり、琉聖の前にビラを差し出してきたのである。 「バレー部、お願いします!」  凜々しい笑みを(たた)えたその男子生徒の双眸をとらえるには、視線を少々上げなければならなかった。他の生徒たちより頭一つ分背が高い。一八五センチ以上は確実にありそうだ。いかにも秀才っぽい、賢そうな顔をした人だった。 「部の存続がかかってます! 迷っているならぜひうちに来て!」  長身の彼の隣で、同じジャージに眼鏡姿の男子生徒が琉聖に声をかけてきた。できれば視界に入れたくない球体、バレーボールを右腕と脇の間に挟んでかかえている。身長は琉聖よりわずかに大きく、推定一七五センチ。日本人男性の平均身長よりは大きいけれど、バレーボールをするにはやや小さい。  お願いします! とふたりのバレー部員が声を揃えた。もらうつもりなどなかったのに、いつの間にか琉聖の手の中には男子バレー部のビラがきっちりと収まっていた。  ゾロゾロと移動する新入生たちの波に乗って、ゆるやかに足を動かしながら彼らの前から遠ざかる。気がつけば、目の前に校舎への入り口が見えていた。  ほんの少しだけ新入生の列からはずれ、手渡されたビラに目を落とした。 〈求む! 男子バレー部の救世主!〉  そう銘打たれた見出しの文字に眉をひそめる。――救世主? なんだそれ。  続きを読めばその意味がよくわかった。どうやら現在、男子バレー部の部員はたったのふたり、先ほど琉聖にこのビラを手渡してきた彼らだけらしい。このまま新入生が入らなければ部の存続は不可能。愛好会としてならば続けられるが、人数が揃わなければ公式戦には出場できない。つまるところ、実里丘高校男子バレーボール部は、廃部寸前の危機的状況にあるということだ。 「なるほどね。それで『救世主』か」  誰にも聞こえないくらいの小声を漏らし、琉聖は右手でくしゃりともらったビラを握りつぶした。  ――やらねぇよ、もう。  バレーなんて二度とやらない。  中学最後の試合を終えた時、そう固く心に決めた。  あの日を境に、バレーとは縁を切ったのだ。バレーをやめれば、もう二度とあんな悔しさを味わわずに済む。心ない罵声を浴びせられることも、あいつらの腐りきった顔を見ることだってなくなる。  最高だ。最高の選択をした。  俺は間違ってない。  バレーなんて。  バレーなんて、大嫌いだ。
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