7.悪巧み

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7.悪巧み

 ふわふわと覚えのある心地良さの中、慧兎は目を覚ました。いつ眠ったのか覚えがないまま寝落ちして、昨晩はしっかりと熟睡したようだった。  慧兎は隣にいるはずの男の姿を探すためにベッドから降りた。リビングだろうかと、借りたスリッパの音をパタパタと鳴らして向かう。  ドアを開けたとたん、コーヒーの香りと、朝食だろうか美味しそうな香りが慧兎の鼻腔をくすぐった。 「おはよう」  入口で立ち止まっていた慧兎へと声をかけ、菅野がキッチン側の奥から姿を現す。皿に乗せられた沢山のサンドイッチをテーブル中央へと並べた。 「食べられるか?」  と聞かれ、慧兎はハイと小さく頷いてお礼を言った。美味しそうなミックスサンドだった。  二人でゆっくりと朝食を楽しむ。それだけで慧兎は心が満たされる気分になった。  今日は二人で映画を観に行く予定だったが、昨晩あのままここへ来たために、前と同様にして着ていく服がなかった。  昨日のスーツでも着て近くへ買いに出ようとしたら、スーツはもうクリーニングに出してしまったらしく、慧兎は諦めるしかなかった。クリーニングが仕上がるまで、またこの大きすぎるスウェットで過ごすことになりそうだと、自身の身体の小ささとともに悟る。  菅野と一緒は嬉しいが、どうせなら一緒に出かけたかったなと慧兎は残念にも思う。  しかし、菅野は買い物ついでに自分が慧兎の服も買ってくると言いだした。一緒について行くわけにもいかず、慧兎は渋々お願いするしかなかった。  菅野が買い物へと出ている間、慧兎はスマホをチェックしたり、スマホに入れていた学習アプリを開いて隙間時間で勉強を始めた。  しばらく忙しくてアプリすら開いていなかったが、今になって急にやる気が湧いてきた。疲れ切っていた慧兎の心も、次第に回復してきたお陰かもしれない。  慧兎はソファーに凭れながら、開いたアプリを眺め入った。  再び玄関の扉が開く音にも気づかないまま、慧兎はすっかり集中モードに入っていた。  耳元で菅野から「ただいま」と言われ、慌ててソファーから背中を浮かせる。 「あ、おかえりなさい!」 「何をそんなに集中してたんだ?」  菅野は買ってきた紙袋をドサっと床へと置いた。 「久しぶりに資格の勉強を…って、ずいぶんたくさんお買い物されたんですね」  床に置かれた大きな紙袋は6つもあった。よくひとりで持てたものだと慧兎は感心する。 「これくらいあれば慧兎も困らないだろ?」  さらっと言った菅野のとんでもない言葉に、慧兎はソファーから腰を浮かせた。 「困らないって、まさか…これ全部、僕の?!」  買ってきたものはすべて慧兎のものだと言われ、慧兎は唖然としてしまった。  中身は、外出時の洋服が何点かと、それに合わせた靴、バッグや小物類、パジャマ等。これでは二泊三日の旅行の荷物量と変わらないのではないだろうか。おまけに殆どが有名なブランド品だ。 「これで、いつでも泊まれるな」  そう付け足され、慧兎はやっぱり頬を赤く火照らせた。  菅野と映画を楽しんで、帰りに定食屋へ立ち寄り、再び菅野のマンションへと帰ってきた。楽しいひと時はあっという間に過ぎていく。  今日はひとりで入ったバスルームで、慧兎はきのう菅野にしてもらったようにして、後ろの準備をしてみた。自分で指で解そうとしても、せいぜい指二本が限界だった。  それに、菅野のことを思うと必要以上に感じてしまいそうで、慧兎はのぼせそうになりながらもシャワーを終えた。  先にシャワーを済ませた菅野は、ベッドの上で読書中だった。寝る前に本を読むのが日課のようだ。  菅野は慧兎に気が付くと、本を閉じてベッドへとあがった彼を引き寄せる。ギュッと抱き込んで、お風呂からあがったばかりの慧兎の細い首筋へと、噛み付くようにして吸い付いた。 「良い匂い…」  唇で首筋を辿られて、甘噛みする。慧兎の口から甘い吐息がこぼれ出た。  パジャマのボタンを外して胸元を露わにすると、その赤く尖った先端を両手の親指でクリッと潰した。 「…ッ…ア!」  慧兎の腰がガクガクと震え始める。腰を浮かせて膝立ちのようにして菅野へと抱きついた。  震えて膝をつく慧兎の下でフルフルと震えるそれを、菅野は抱きしめることで自身の腹部へと押し当てる。 「ア…アッ…」  慧兎は堪らず身震いした。  今度はその両手のひらが背中をするりと滑るようにして腰を掴む。片方の手の指が、慧兎のパンツを下ろして後ろへと触れた。  昨日よりはすんなり入る指の感触に、慧兎がバスルームで準備する姿が脳裏に浮かんだ。昨日みつけた慧兎の良い部分をゆっくり擦りあげると、昨日同様にかわいい声がこぼれた。  菅野は指を二本に増やしていく。 「ふぅ…っ」  抱きついたまま菅野の首筋へと顔を埋めた慧兎は、堪えるようにして菅野の首筋へと歯を立てた。  次第に慧兎の中が、ヒクヒクとまるで菅野の指を誘い込むようにして収縮を始める。菅野は指をもう一本と増やしていった。  菅野の首筋を甘噛みしていた慧兎は、ねだるようにしてその首筋をチュウチュウと吸う。 「蒼太さん…、もっと…っ」  慧兎の腰がビクビクと、我慢できないとばかりにゆるりと揺れ動いた。  菅野は挿入していた指を引き抜くと、代わりに自身のものをあてがう。震える腰を両手で掴んで一気に菅野へと下ろした。 「……ンァッ!」  体勢を変え、今度は菅野が覆い被さって慧兎を穿つと、ベッドへと押し付けるようにして何度も打ち付ける。  次第に弾むスプリングがリズムを作りあげ、それは速さを増していった。 「アッアッ…! もっダメ…ッ、出ちゃ…っ」  慧兎の腹の上で揺さぶられ、翻弄されるがままの慧兎のモノは、触れられることもないままに吐精させた。  同時にキュウっと菅野を締め上げて、菅野のそれも彼の中で限界を迎える。  慧兎は半ば放心しつつも、薄っすらとあけた眼をゆらりと泳がせて菅野を捉えた。  苦しげに眉を寄せて吐精する、そんな菅野の顔を、慧兎は力ないままに眺め入った。  シャワーに入り直した二人は、お互いすっきりとした身体を寄せ合って布団へと一緒に包まった。  菅野は右向きで、慧兎は左を向いて向き合う。  菅野の腕が、慧兎をできるだけ側へと抱き寄せた。 「さっきは何の勉強をしていたんだ?」  今日はまだ眠る気配のない慧兎へと、菅野は今朝、彼がアプリでやっていたことを尋ねる。 「今やってるのはBATICっていう会計の勉強です。最近は全然やってなかったんですけどね」  慧兎は経理部で仕事をする身で、そこでは専門的な資格取得を推奨されている。ある程度の資格は全て取得していたが、勉強すればするほどに案外楽しくなってきて、今では趣味も兼ねて更に専門的な資格の取得に励んでいる。  菅野もその実績は知っていたが、毎晩のように残業しているのにまだ勉強を続けていたことには、菅野も正直驚いた。そんなところにも、慧兎の性格の真面目さが垣間見える。 「といってももう既に趣味の域ですよ。僕、英語が苦手で、なかなか覚えられなくって…」  慧兎はハハハと自嘲気味に笑った。 「そういう蒼太さんは、いつもどんな本を読んでるんですか?」  今度は慧兎が尋ねると、菅野は枕もとに置いたままの本を手渡した。 「読んでみるか?」  と、渡されたのは、英語で書かれた分厚い本だった。 「……完全に嫌味になってますけど…」  慧兎は恨めしそうに菅野を見上げた。 「少しは教えられそうかな」 「えぇそうですね!」  菅野の胸元へと拗ねたようにして潜り込む。顔をみせなくても、頬を大きく膨らませている様が菅野には容易く想像できた。 「慧兎があんまり可愛くてつい…悪かった」  小動物のように丸まった彼の頭を、菅野は大事そうに優しく撫でる。  少し機嫌が直った様子の慧兎が、警戒しながらもチラリと顔を覗かせる。そこには、謝っていたはずの菅野が笑いを堪えている姿があった。 「もぅ…」  諦めたような声とともに、慧兎はすっかり顔を出す。  そんな慧兎の頭を、また隠れてしまわないように腕の中へと取り込んだ。 「慧兎はすごいな。趣味だろうが何だろうが、そのまま続けていけばいい」  慧兎は菅野にとって最高の恋人だが、会社にとっても良い人材と言えた。  でも、今のままでは、慧兎自身が周りに潰されかねないだろう。菅野の危機感は、とうに限界を超えていた。 (それならば、こちらからちょっと力を入れてやらないと…)  と、腹の内で何かを企む。  この悪巧みが、隣で眠る恋人に見つからないようにと願いながら、菅野は腕を伸ばして部屋の明かりを常夜灯へと変えた。  
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