洗い流す

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 雨よ、降ってくれと私は再び願う。このままだと、証拠が残ってしまう。雨で指紋が消える、と聞いたことがある。靴跡も残っている。そうしたものがすべて雨で消えてほしい。  目の前に倒れているのは、私だ。あの時、私は、結局彼女に刺されてしまったのだ。彼女はきっと冷静でなかったのだろう。いくつかの証拠を残したまま、逃げて行った。ただ、その証拠はきっと、雨が消してくれる。だから。  雨よ、降ってくれ。  私は、今でも彼女のことを愛している。彼女には幸せになってほしい。こんなことになったのも全ては私のせいだ。私は最後の力を振り絞って、腹に刺さったナイフに手を添えて、自殺したように見せかけ、そこで息絶えた。うまくいけば、きっと彼女に振られて、絶望の末自殺した情けない人間だと見なされる。それでもいい、彼女が助かるのなら。  そしてようやく、雨が降り始めた。私はほっとして、ゆっくりと消えていった。
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