草むしり

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草むしり

「本日の戦闘もバッチリですね」 「ああ。我が魔法使い達の目覚ましい成長には目を見張るよ。ところでバリアは大丈夫かい」 「ボス。この国にバリアが張られていると気付く人物が今までに居ましたか?」 「はっはっは、そうだった」  ボスと呼ばれた男とその下っ端は大学研究棟(アジト)のモニターを見上げる。モニターが映し出しているのは他国に仕掛けた監視カメラ映像と、清潔に保たれている人間用ガラスケージが二基。そこには魔法使いが二人放り込まれていた。  二人は黙々と魔法を唱え続ける。その魔法によって他国の人々の尊い命が奪われているのだとは知る由もないが。 「新入り二人が怪物並に暴れていますね。海を越えた国まで魔法が届き、辺り一面が草木と炎と血だらけ。他の魔法使いが雑魚に見えてしまう」 「このまま行けば、数年もせずに世界は我々の手中だ」 「流石です、ボス!」  遠い昔からこのディアレール国と他国では戦争が行われていた。ある時代の権力者は考えた。国民の命はあまり犠牲にしたくないが、この手で世界を統一したいと。だから国民とは無関係で活動出来る、ボスと下っ端達から成り立つこの組織が誕生した。  けれど問題は山積みだった。自ら戦いに参加したいと思う国民は殆ど居なかったし、いざ下っ端になりたいという希望者が現れたと思えば、彼の魔法よりも棒切れ一本で戦う方がマシなレベルだった。  そんなとき、一人の大魔法使いが声を上げた。彼は魔法で国民から戦争に纏わる記憶を消去し、強力なバリアを張った。更にはこの大学研究棟(アジト)を一人で造り上げてしまったのだ。……彼はありとあらゆる魔法を使える人物だった。 「これで戦争し放題。ジブンは老人なのでもう戦闘は不可能ですが、貴方達の野望を応援したくて。優秀な人材をゲットして大学研究棟(アジト)に収容すれば、他者からは怪しまれないはず。これは特製の洗脳薬だ。人々に一錠飲ませるだけで、簡単に殺戮マシーンを作り出せる」  元ボスは彼に感謝の気持ちを何度も述べたが、彼は数日後に心臓発作で亡くなった。 「……大魔法使いの名は、アースト・ユーギナ」 「はい、新入りのトペラ・ユーギナは彼の子孫らしいです」 「ミスト・レイ。新入りの片割れであるアカリ・クラックハルトは、洗脳薬を飲ませた直後に最後の力を振り絞って何と言ったのだった?」 「“……トペラ君はここに来れるだけの力があるから、いつか二人で学んで、一緒に大魔法使いになりたかった。お願いします、せめてトペラ君だけは……”と、涙ぐみながら」 「馬鹿馬鹿しい。我々のお陰で二人一緒になれたというのに」 「トペラも“騙したのか。オレは底辺魔法使いのままだった方が幸せだったのか? 雨を降らせる努力を続けるのが最適解だったのか? アカリ、お婆ちゃん……”と」  ボス(リベルス教授)はどこかの国の魔王のように嗤う。トペラが同タイミングに発動した魔法の爆発音は、この国の誰にも届くことはない。 「何を言う。君達の絆で血の雨や火の粉の雨を降らせているではないか。これは君達の望み通りの、ハッピーエンドな友情物語だ」
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