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「―――であるからして、水魔法には繊細な心と精神力が必要であり、すなわちそれは、この魔法は害悪で外道な者には使用出来ないことを指している。火炎魔法は……」  オレは大学指定のノートに平仮名で「せんさいなこころ」「せいしん」とだけ記入する。害悪や外道に関しては覚えておきたくもない。  大学の講義は非常に楽しい。こうやって黙々と勉学に励む振りをしつつ、人間観察をこっそりと行うのも趣味の一環。オレ、知識量だけは校内トップクラスなもんでね。講義は聞き流しが丁度良い。  この講義が終了したら、次は水属性魔法使いの集いがある。オレは、そこで話される教授達の長ったらしい自慢話が大嫌いだ。 「―――えー、ではこれで魔法学Ⅱを終わる。水魔法使いの者、それから草魔法使いの者は集いがあるので、それぞれ一階の第一魔法室と第二魔法室に集合するように」  続々と生徒が席を立つが、一方のオレは離席出来ずにいた。というか、出来なかった。クスクスという笑い声と、誰かからオレに対しての陰口が耳に入ってきたから。  「このディアレール大学に魔法が使えない男子生徒が居る」という噂が人から人へと伝染したのは、オレがこの学校に入学してから三日後の話だ。  新入生歓迎会で同じ水魔法使いの先輩と魔法攻撃の特訓をする際、先輩から「君はどの魔法が得意?」と訊かれた。  それに対してオレは「得意も何も、オレ、魔法使えません」と正直に答えたのだ。  ……先輩どころか教室一帯が凍り付いたあの空気は、一生忘れやしないだろう。あの日からだった。入学式で普通に会話していた奴もがオレの敵へと移り変わったのは。約二年前の日を思い出しながら、オレは重い腰を上げ、パーカーを深めに被った。  雑草を馬鹿にして見下す花々は、きっと自分より偉大なる木々の存在を知らない。 ✽✽✽  オレも含む水魔法使い達が第一魔法室に着くと、そこでは白衣を着衣したリベルス教授が教壇で待ち構えていた。 「待っていたぞ、可愛らしい我が魔法使い達」
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