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生徒達は思い思いの席に着き、オレは最後列の端っこの椅子に座る。若くして水魔法使い育成担当の教授という地位に上り詰めた彼からは、どことなく強者のオーラが漂っている。教授は咳払いを一つしてから話し出した。
「えー、諸君。勉学には励んでおるかね。この調子で大魔法使いを目指すと共に、夢に向かって日々精進してくれ。――そういえば我々とは別の属性使いではあるが、明日新たに優秀な生徒が一名、研究棟の方に移動するそうだ。素晴らしいね。私も学生の頃…………」
始まったよ、教授の思い出話。これも耳に胼胝が出来るほど聞いたやつで、学生時代に突如攻めてきた魔王軍の幹部を一人で退治してしまった、って内容だったはず。
正直もう寝たい。でもここで居眠りをしたら……! オレが睡魔と戦っていると、教授は話を切り出した。
「……深掘りして語りたい気持ちは山々だが、このあと大事な用事が控えていてね。集会はこれにて終了とするよ。では解散。何か質問があれば、私のもとに来なさい」
あれ、普段よりもあっさりと終わった。解散時間がいつもより早すぎて違和感満載だが、ちゃっちゃと帰宅して魔法の特訓しますか。今から帰れば日が沈む前には練習開始出来るだろう。
「ちょっと……そこのフード被っている君! こちらへ来なさい」
オレが魔法室と廊下を繋ぐドアに手を掛けると、教授が叫んだ。オレは教授のもとへと駆け寄り、フードを下ろす。
「君の名前は……ええと、何だっけな」
「トペラ・ユーギナです」
「ユーギナ。君は水魔法が使えないと他の生徒や教授から聞いているが?」
「はい、そうです」
「ということは、一番最初に行う魔法、“練習用水魔法”を身に付けている最中かね」
「はい」
練習用水魔法は、ある程度水が溜まっている場所の目の前で唱えると、そこに触れることもなしに水飛沫が上がる。ただそれだけの初級魔法だ。
「その魔法の進捗は」
「えーっと……」
……そこからは最早事情聴取のような質問攻めが続き、開放されたのは数十分後のことだった。
改めて家へ帰ろう。ここらで採取されるレアストーンが散りばめられた床を見つめながら、大学のフロントへと歩を進める。すると、階段付近で誰かがオレの名前を呼んだ。
「ねえ、トペラ君……だよね!?」
オレは階段の踊り場に目をやる。声の主は、オレの唯一無二の親友で草魔法使いのアカリだった。
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