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蕾
オレ達はフロントに設置された休憩スペースのソファーに体を預る。右横からは「どっこいしょ!」という声が聞こえ、オレはつい吹き出してしまった。
「お前、お爺さんじゃないんだから」
「いーじゃん別にー。……ほい、これどうぞ」
アカリが手渡してきたのは、この辺りで最近流行っている缶の炭酸飲料だった。オレはそれをありがたく受け取り、プルタブを手前に引いて開栓すると、シュワッという音が踊る。美味しそうだなと口を付けた瞬間、突然アカリは口を開いた。
「ボクさあ、明日から大学研究棟で活動するんだよね」
「……うぇ?」
缶からゆっくり口を離す。大学研究棟とは、魔法において優秀な生徒の中でも更にほんの一握りの生徒が通う場所だ。そこでは教授達や大学のサポートをしつつ、大魔法使いになるための近道となる特訓をするらしい。
そういえばリベルス教授も研究棟があーだこーだと話していた。まさかそれがアカリだとは。
「アカリすげぇな。オレなんて筆記試験だけで大学に滑り込んだような奴なのに」
「はあああ? じゃあトペラ君、ボクが四番目に取得した草魔法番号・第十八番の魔法名は?」
「え、“育成”?」
「火炎魔法番号・第百六番は」
「あー……爆破魔法?」
「妖精魔法番号・第二十番は」
「遊戯」
アカリが自身の前髪を掴み、頭を抱える。オレはその様子を見ながら炭酸飲料を半分ほど飲んだ。
「トペラ君。その記憶力は才能という分類に入るんだよ」
「お前だって全部覚えているじゃん」
「違う違う。研究棟移動のときに試験があって、全属性の魔法番号を百五十番まで暗唱しなきゃいけないの。だから汗水垂らしながら必死に頭に叩き込んだのに……君はいつ知ったの、さっきの情報」
記憶の糸を辿る。……大学入学前、アカリと一緒に帰宅していたときだ。あのときアカリが全属性の魔法の暗記に取り組んでいて、単語帳を覗き見している最中にオレも覚えたんだ。
「アカリの単語帳とか?」
「それだけで番号まで覚えるって才能だよ」
「でもオレは魔法が使えない。傍から見れば役立たず」
アカリは自身の丸眼鏡の位置を調節すると、何も言わずに立ち上がる。そのまま大学を後にして、数メートル先で動きを停止した。缶の中身を空っぽにしてからそれをゴミ箱に捨て、アカリの後を追いかける。と、いきなりつむじ風がオレの前に立ちはだかった。
「ぎゃあ!?」
危うく風の中に突っ込みそうになり、足で急ブレーキを掛ける。
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