種蒔き

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種蒔き

 オレがお婆ちゃんの家に遊びにいくと、お婆ちゃんはあの言葉を口癖のように繰り返し繰り返し唱えていた。 「後悔の情は大切にね、心の奥底に保管しておくんだよ。才能や努力の芽は、悔やむという肥料があってこそより美しく開花し、咲き誇るんだ。暴風雨にも、暑さにも、寒さにも耐え抜いたからこそ、オリジナルの素敵な花が咲くもんだ」  お婆ちゃんはオレに微笑んでから両肩にポンと手を置き、激励してくれた。あの程よく温かい、しわくちゃな手が大好きだった。そしてその後に水魔法「雨雲(レイン)」で庭に雨を降らせ、小さな虹を作ってくれたのは、もっと大好きだった。  でもお婆ちゃん。今更遅いけど、質問したいことがあるんだ。お婆ちゃんは後悔が良い肥料になる、って言ったよね。  だったらさ。土は何で、日光は何で、水は何になるの。教えてよお婆ちゃん。葬式で棺の中に声を掛けても、返事はない。お婆ちゃんは「会話のキャッチボールを楽しむんだよ」って言っていたのに、これじゃあオレが一方的に喋っているのだから、会話のドッヂボールになってしまう。  オレはお婆ちゃんの棺にしがみつき、泣きじゃくりながら、親族にばれないように「雨雲(レイン)」を唱え、右人差し指を掲げた。雲一つ現れなかった。  オレの家系は代々、水魔法使いの中でもトップ一、二を争うほどのスペシャリストばかりだった。その中でオレは、魔法大学に入学した現在でも初級魔法すら使えない。だから親戚や家族すらもオレをお荷物扱いする始末。その中でお婆ちゃんは命に等しいくらい重要な存在だったのに。お婆ちゃんもこんなオレに飽き飽きしてしまったのか。  ごめんな。ごめんな、お婆ちゃん。いつだったか「オレ、世界で一番の魔法使いになる。お婆ちゃんとの約束!」って指切りげんまんしたはずなのに、それを破ったからかな。本当にごめんな。オレ、二十年間の人生を経て、ようやく気が付いたんだよ。  地上に水一滴すら降らせられないような奴には、才能や努力の種にも水を与えてやれないんだ。
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