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印をつけ終えたら、シートをゆっくりと頭から外す。ハゲが解放された瞬間。頭皮と新鮮な空気の再会だ。
脱いだシートには、フルネームで自分の名前を書かなければいけなかった。その瞬間、遠い記憶が蘇る。
―――あれは確か、小学校に入学したばかりの頃。
上靴、お道具箱、給食袋。そのひとつひとつに、母ちゃんが俺の名前を丁寧に書いてくれていた。
「はい、達哉。お友達、たくさんできるといいねぇ」
綺麗に名前が書かれたお道具箱を手渡してくれた母ちゃんは、そう微笑んで俺の頭を撫でた。その時の俺の髪は、ふさふさだった。
まさか母ちゃんも、自分の息子がこの年齢でカツラシートに自らの名前を書くなんて、夢にも思わなかっただろう。
ごめんな、母ちゃん……。
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