1人が本棚に入れています
本棚に追加
雨の中
「ちょい、 亜希っ‼ 待ってって‼」
大雨の帰路で響き渡るあなたの声。
相変わらず整った顔、柔らかい茶色の瞳が私を見つめる。
「――――優斗」
「嬉しかった、そう言ってくれて。ありがとう、ごめんね? 私のせいで」
手短にそう告げ、あなたに背を向けた。もう言いたいことは言えたし、明日からは全くの無縁だね。ようやく、ようやく、あなたに言えた……。
それなのに、あなたはまだ――
「何で、謝るんだよ。亜希、どうしてそんな態度なんだよ。いつもとちげーじゃん」
そうやって、私を引き止めるんだね。
「迷惑ばっかりかけて、問題児で、隣居たらもっと迷惑でしょ?」
「俺だって、問題児じゃん。てか、お前よりはるかに上じゃん」
「違う。あなたは――私よりも、素敵な彼女が居るから」
「何言ってんだよ‼ 亜希っ‼ 俺は――」
その続きはもう、分かってるから。
言わないで、お願いだから。
「だめ」
だから、あなたの口を指でふさいだ。
「そう思ってくれるだけで、幸せだよ? 私」
そう告げ終わると、私は足早にその場を後にした。
いや、早くそこから逃げたかった。
その声、その瞳に見つめられれば、愛しいほど苦しい。
これでようやく、苦しまないで済むよね?
私は苦しまなくて済むけれど、きっとあなたは苦しむはず。
だから、だから――――
あなたは私を忘れて?
最初のコメントを投稿しよう!