雨の中

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雨の中

「ちょい、 亜希(あき)っ‼ 待ってって‼」  大雨の帰路で響き渡るあなたの声。  相変わらず整った顔、柔らかい茶色の瞳が私を見つめる。   「――――優斗(ゆうと)」 「嬉しかった、。ありがとう、ごめんね? 私のせいで」  手短にそう告げ、あなたに背を向けた。もう言いたいことは言えたし、明日からは全くの無縁だね。ようやく、ようやく、あなたに言えた……。  それなのに、あなたはまだ―― 「何で、謝るんだよ。亜希、どうしてそんな態度なんだよ。いつもとちげーじゃん」  そうやって、私を引き止めるんだね。 「迷惑ばっかりかけて、問題児で、隣居たらもっと迷惑でしょ?」 「俺だって、問題児じゃん。てか、お前よりはるかに上じゃん」 「違う。あなたは――私よりも、素敵な彼女が居るから」 「何言ってんだよ‼ 亜希っ‼ 俺は――」  その続きはもう、分かってるから。  言わないで、お願いだから。 「だめ」  だから、あなたの口を指でふさいだ。 「そう思ってくれるだけで、幸せだよ? 私」  そう告げ終わると、私は足早にその場を後にした。  いや、早くそこから逃げたかった。  その声、その瞳に見つめられれば、愛しいほど苦しい。  これでようやく、苦しまないで済むよね?  私は苦しまなくて済むけれど、きっとあなたは苦しむはず。  だから、だから――――  あなたは私を忘れて?
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