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 駆け出す成沢のあとに知世も続いたが、部屋を出たときにはもう警部の背中は見えなかった。知世は階段で転倒しないよう、両側の壁に手を当てながら、用心深く駆け下りた。玄関で靴をつっかけ、白い砂利敷きを走り抜ける。門を出ると、そこで立ち止まっていた警部に危うくぶつかりそうになった。  警部の視線の先にある交差点では、すでに何台ものパトカーが停まっていて、物々しい雰囲気が満ちていた。さらに怒号も飛び交い、複数の警官が若い男と揉みあっている。 「成沢警部」制服警官が成沢に近づき、声をかけた。知世の知らない顔で、別の署の所属らしかった。  知世は警部の横で二人の会話に耳を傾けた。その中で、以下の流れを把握した。  今朝、鎧塚と介護職員を乗せたタクシーが繁華街へ出発し、複数の覆面パトカーが距離を取りながらその護衛についた。鎧塚らが銀行を出て帰路につくと、偽造ナンバーの不審車両が後をつけるのを、署員の一人が車上から発見した。警官らは護衛を続けつつ、携帯電話で、タクシーに乗車中の鎧塚らへ、何も気づかない振りをして家へ向かうよう指示した。  やがて、タクシーが鎧塚邸に到着すると、不審車も数軒離れた路上でひっそりと止まった。それを見て、背広の警官らが即座に近づき、運転者へ職務質問を行った。すると、ドライバーであった若い男は、またも無計画な逃走を試みた。そこで、事件性を確信した警官らは一斉に飛び出し、今のような逮捕に踏み切った、という顛末であった。
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