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 そこに神部凜花が立つと、彼女と同じ紅いルージュをした有名モデルのパネルが、下から出てくる。人々は、いっせいに拍手をした。  そしてリラクゼーションエステの映像が、大画面に映し出される。  セレブから大学生まで、幅広いニーズに合わせて、店舗を展開していくというナレーションと共に、オーガニックでお洒落な空間が映し出され、コスメがピックアップされた。 「みなさま、この度は、お集まり頂き誠にありがとうございます。エコとあらゆる世代の女性にリラクゼーションを、テーマに私、神部凜花は『re.HANA』のブランドを立ち上げました。従来のエステ、リラクゼーションという枠を越え、その場にいるだけで幸せになれることを、当ブランドは目指しております」  すでに、都内に数店舗オープン予定の『re.HANA』は、あらゆる面において、女性の居心地の良さをアピールしていた。雑誌の記者とカメラマンが、若き実業家の神部凜花を撮影する。今、彼女が身に着けている、白のワンピースも世界的に有名なデザイナーと、コラボしたもので限定販売するという。  佐伯は、彼女の様子をじっくりと観察し、鬼頭は、話半分に聞きながら周囲を無意識に見渡す。立食パーティーのような形式だが、数人のボーイたちが歩き回っていた。ふと、見覚えのある後ろ姿に鬼頭は目を見開き、反射的に彼を追う。  間違いなく、あの後ろ姿は高階葵だ。  あの厳重な警備をすり抜けて、すでにこの会場に入っていたと言うのか。  この会場にも、何人かの私服警官がいるはずだが、あまりにも葵が従業員として、自然に振る舞っているせいなのか、不審に思われていないのかもしれない。それとも、あの花の奇妙な能力とは他に、相手に認知されにくい特殊能力を持っているのだろうか。  鬼頭は、気付かれないように客の間を通り抜けて、葵の手首を掴んだ。 「――――っ」 「はぁ……見つけたぞ、高階葵」 「なんだ、鬼頭さんか。停職処分受けたんじゃなかったんでしたっけ」  鬼頭の表情は刑事のものだったが、まだその瞳に同情が見える。葵は、手を掴まれた時にほんの僅かに動揺したが、不敵に笑った。  鬼頭のような熱血刑事なら、いくら停職処分になろうとも、自分を追って乗り込んでくるだろうと、心のどこかで予想していた。 「これは、俺の事件でもあるんだ。もうこれ以上、渋谷の時のように無関係の人間を巻き込むな。これだけ騒ぎになっていれば、世間も注目する。君が証言すれば、合法的に神部凜花を罪に問える可能性が高い」 「そうかもね。でも、もう遅い。できれば、あんたにはここに居てほしくなかった。鬼頭さん。今からでも、佐伯先生を連れて逃げなよ」  葵は、意味深に笑った。  どういう意味だ、と問いただそうとした時、会場から突然悲鳴が上がる。ざわざわと、その場にいたゲストが騒ぎ出し、神部凜花がプレゼンテーションを止める。反射的に、鬼頭もそちらに視線を向けた。 「いえーーい、お集まりのみなさん! どうも、こんばんわぁ〜〜! 凜花を応援してくれてありがとねぇ!」  そこには、拳銃を手に持ち右目に眼帯をした優花が現れた。ニヤニヤと笑う様子は、正気ではない。神部優花が種子殺人鬼の『テロ』に巻き込まれたのは、この会場にいる全員が知っていた。しかも未知のウィルスによって、感染し『種子症候群』の第一患者で、隔離状態にあると聞いていたので、その場はパニックになる。  世間ではあの連続種子殺人は、犯人がウィルスを投与して、被害者を殺害したことになっていた。 「神部……優花!?」
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