1/1
223人が本棚に入れています
本棚に追加
/73ページ

 凜花も、鬼頭も絶句した。  優花の右の眼球から太い蔓が飛び出し、B級ホラー映画に出てくる、モンスターのような変貌を遂げている。  優花がうめき声を上げると、脇腹や背中からそれに追随(ついずい)するかのように、太い蔓が出てくる。鬼頭が優花に違和感を感じたのは、葵のように余裕の表情ではなく、明らかに苦痛に顔を歪ませていたからだ。  絶叫する人々の声が響き、もはや誰も冷静な判断ができないほど、その場は恐怖に飲み込まれている。  凜花も、まるで化け物を見るかのような目で双子の妹を見つめ、声を失ったまま、二三歩後退した。阿久津とは異なり、明らかに自らの意志で体に寄生した花を、使っているように見え、動揺しているようだった。 「なぜ、神部優花があの能力を持っているんだ。生き残った奴らは、同じ力を得るのか?」 「待て、鬼頭! これは高階葵の罠だ」 「罠だと?」  優花の蔓が、父親の明彦の首元に巻き付くと口を捻じ開けて、顎が外れるほど喉を蹂躙し、内蔵を掻きむしっていく。優花は葵のように触手から種子を出すことができないのか、奥へ奥へと蔓が伸びていく。  まるで、親の愛情を欲する小さな子供のように、蔓を内部に押し込んでいると、警官たちがいっせいに、引き金を引いた。  パンパンパンという、乾いた音が立て続けに鳴り、神部明彦の腹部を突き破って太い蔓が出てくると同時に、体中を撃たれた優花が血を吐きながら、崩れ落ちていく。  そこから、ゲストは蜘蛛の子を散らすように非常口から逃げ出した。また優花を遠巻きにしながら、壁を這うようにハンカチで口を抑え、逃げ出す者もいた。   「みなさん、危険です。落ち着いて下さい! いったん落ち着いて下さい!!」  警官や警備員の叫び声も、その場に虚しく響くだけだった。鬼頭と佐伯は混乱の中で、すでに息が耐えようとしている優花の姿を見ると、慌てて凜花を探す。  しかし、もうどこにもその姿はなかった。  逃げ惑う人々に気を取られ、一瞬凜花から目を離してしまったのがいけなかった。 「まずい、凜花がいない。くそ、どこに行った! 逃げ出したのか? 優花は『(おとり)』だったのか?」 「僕は、なぜ事件の中心にいた彼女だけ生き残ったのか、不思議に思っていた。例えば、いじめの復讐のために、時間をかけて彼女を死に至らしめる拷問を考えたのかと。それもあるだろうが、高階は、警察の目を欺くためのエサにしたんだ」  今までの事件からしても、高階凛の殺害に関与した彼女が、生かされていることに違和感を感じるべきだった。佐伯の言う通り、妹を殺された優花を生かしておくのは、不自然だ。簡単に死なせないという意志は感じる。  そして彼は、神部優花に騒ぎを起こさせ凜花に近づくことを考えついた。 「おい、神部凜花がいない。この会場に高階葵の姿を見たんだ。探せ、凜花が殺されるぞ!」  優花の遺体に群がる警官たちに、鬼頭は近付いてそう告げると、彼らは慌てて連絡を取り合い、走り出した。息絶えた優花の手に握られていた、拳銃を取り上げると周囲を見渡す。  このビルの最上階は、ヘリポートがあるし空からの逃亡は可能だ。そちらを選ばなければゲストたちと共に、どさくさに紛れて裏口から逃げ出したかもしれない。 「鬼頭、この会場にVIPルームがあるはずだ。ゲストとは別に、主催者側の人間が出入りしていたことを記憶している」 「ここは普段、披露宴として使われている。ってことは、控室があるはずだな」  鬼頭と佐伯が頷くと、控室の方に向かう。このビルにやすやすと侵入できるのだから、彼は内部を熟知しているだろう。
/73ページ

最初のコメントを投稿しよう!