真逆剤2

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「あなたが好きです。私は誰よりも…あなたが好きなんです」 「ごめん」 あぁ、このセリフ何回目だろうか。 ごめん、って断るのにも飽きてきた。 歩くたびに挙がる歓声。 美容室に行くと必ず「俳優さんですか?」と聞かれる。 東京へ行くとスカウトされる。 一人で待っていると、かならず何人かの女子に声をかけられる。 そんな俺は、自分で言うのもなんだがイケメンだ。 丸顔の母に、田舎者の父。どうしてこの二人から俺が生まれてきたのか。 なんらかの化学変化が起きたとしか言いようがない。 俺は、さっき振った子に軽く手を振りながらその場をさった。 メガネを掛けたおとなしい女の子だった。 あの子もいじめられるんだろうな。 きっと密かにできている(でも俺は気づいている)俺のファンクラブに。 ファンクラブでは俺は近寄りがたい存在。 そんな俺に近づいたさっきの子はきっと、目をつけられてしまう。 でも、そんな可哀想なこと何人も付き合うわけには行かないので断るしかないのだ。 俺は校門を抜けた。 だれかつけてきている。 まぁいつものことなので見逃してやるしかない。 そしてカバンから校則違反のスマホを取り出した。 そして、アダルトサイトをいじる。 どう、ストーカーの人たち。早く俺に幻滅して。噂を広めて俺を嫌われものにしてよ。 とりあえずストーカーたちに見せつけるためアダルトサイトを開いた。 それでも女子はついてきている。 俺は一度スマホの電源を切ると、そのまま家まで走る。 こうでもしないと次の日にはポストに手紙がパンパンだ。 家についたときにはもう誰もついてきていない。 俺は学年で一番足が速いから。 と、ポケットに入っているスマホが軽く振動した。 「っ…?」 電源をつける。 メールが一軒届いていた。さっき覗いたサイトのせいか。 俺はメールを消そうと思い、内容を開く。 だが、ゴミ箱マークに手が届く前に俺の目はそのメールに釘付けになった。 『もしもすべてが真逆に見える、聞こえる薬があったら。あなたならどうしますか??』 俺はメールが来たホームページを無心でタップする。 そんな事ができるのか…!? よく考えて見ればありえないかも知れないが、不思議と疑わなかった。 〜次の日〜 ピーンポーン。 「お届け物です」 俺は待ってました、とでも言うように外へ飛び出る。 宅配人は少し痩せこけた女だ。 俺は、げっ…と思いつつも荷物を受け取る。 今までも宅配人に恋をされたことがあった。 だが、この宅配人は俺になんの感情も持っていない。 まるで道端に落ちているただの石ころを見ているよう。 「北夏樹さんですね。こちらにサインをお願いします」 俺はサインをする。宅配人はありがとうございます、と笑うとそのまま後ろを向いた。 すこし不思議に思いながらも玄関を閉める。 そして届いたダンボールを靴も脱がずに開いた。 『5日に一粒。飲み過ぎ注意、飲み忘れは大丈夫です。効果が消えるだけですので。これを飲むことによって、あなたのこと好きだった人たちの言動が真逆に聞こえます。ただし、真逆に聴こえるのは自分だけなので注意を。 これを飲んだあなたはブサイクな子がきれいに見え、きれいな子がブサイクに見えます。 ただし、きれいな子に見えているのはあなただけ。 あなたの見た目は周りから見たら変わりません。 どうぞ、真逆ライフをお楽しみください』 これで、もう…悩まされずに住むのだろうか。 俺は段ボールいっぱいに入っている錠剤を一粒口に運ぶ。 小さくて飲みやすい。 何かが変わった気がした。 ……そう何かが。 さっきまで錠剤を持っていたきれいな手はとても太くなった。 下を見るとあんなに筋肉のついていた腹が三段腹に。 そしてなにより玄関についている鏡に写っていたのはこの世のものとも思えないほど見にくい俺の姿だった。 「これは……俺…なのか」 鏡に太い手を置いた。 どうして…美形の俺は何処に行った? 違う、こんなの俺じゃない。 俺は持っていたダンボールを鏡に打ち付けた。 鋭くガラスが飛散る。 慌てて外へ出た。 「は?お前キモいんだよあっちいけブス」 「きっも」 女子たちがそれぞれ呟いている。 違う、俺はこんなのを待っていたんじゃない。 もっと普通で、もっと……もっと……。 『5日に1粒』 この効果はあと5日続いてしまうのか。 俺は家に入り玄関に座り込む。 鏡の破片にブサイクの俺がたくさん写り込んだ。 「はは……やっぱ俺、そのままがいいや」 俺はさっきの錠剤をもう一個口に運んだ。 真逆になったのがもう一回真逆になればきっと…元に戻れる。 きっと、元に戻れる…。 説明書の裏に赤く書いてあった。 『大量服薬はお控えください。もとに戻れなくなる可能性がございます』 完
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