紙一重

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 ペットボトルを六本、胸に抱えて自販機から立ち去る。どうして私が一人でジュースを買いに行くことになったのか。そりゃあね、じゃんけんに負けたからだけど、誰か一人ぐらいついてきてくれても良かったのに。  買いに行く時は下り坂で良かったけど、帰り道は上り坂。足取りもより重くなる。  私には好きな人がいた。一つ上の野田先輩。背が高くてイケメン、成績優秀、スポーツ万能。その上優しい。非の打ち所がない人。もちろんモテる。そんな手の届かない野田先輩に彼女ができました。  悲しみに打ちひしがれる私を励まそうと集まった友達。気持ちは嬉しいけど、じゃんけんに負けた私。容赦なく買い出しに。なんでだよ。  胸に抱えたペットボトルは結露する。私のTシャツは濡れてしまった。冷たい。胸の熱を奪っていく。  別に、期待なんかしてなかった。話したこともないし、遠くから眺めるだけで良かった。野田先輩は私の存在すら知らないかもしれない。  じわっと視界がぼやける。いやいや、全然接点もなかった私が、泣くとか意味分かんないでしょ。  かっこ悪い。ペットボトルを落とさないように気を付けながら、手の甲で目をこすった。 「わっ!」  自転車の急ブレーキの音と共に叫ぶ声が聞こえた。顔を上げると横道から自転車が突っ込んできた。
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