紙一重

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 口元に人差し指を立てて、静かにしてと無言で言われた。私たちは静かにしていても、周りの音が騒がしい。車の音や足音、話し声、たくさんの音が散らばっている。 「猫だ」  堀江が鳴き声を探してウロウロする。私には聞こえなかったので、ため息をついて残りの自転車を起こした。 「森岡! ここだ!」  グレーチングをのぞきながら、堀江は私を呼んだ。嘘でしょ、と思ったけど、ミーとか細い鳴き声が私にもかすかに聞こえた。 「上げるから手伝って!」 「う、うん」  なんとかしようと必死な表情に、思わず私も引っ張られた。グレーチングの穴に手をかけると砂で手がざらついた。 「せーの!」  重い。金属の温度が指に伝わる。でも二人でなら持ち上げられる!  少し蓋が動いた。できる! 猫を助けられる! あと少し! あと、少し……! 「開いた!」  側溝の中で砂まみれの子猫が私たちを見上げて鳴いた。安堵した表情で堀江は汚れた子猫を抱えた。腕の中の高い声で鳴く眼差しが、なんともかわいくて心が温かくなった。……でも。 「どうしよう、この子」  首輪はない。周りに母猫らしき姿も見えない。野良猫だとは思う。うちはお父さんが猫嫌いだから無理だ。せっかく助けられたのに、ほっとくなんてできない。
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